Some Were Born To Sing The Blues

Saxとジャズ、ピアノとブルース、ドラムとロックが好きなオッサンの日々の呟き

7月に札幌に行く、そしてSaxを演奏する

日曜の夜にテレビをぼんやり見ていると、電話が鳴った。発信元を確認すると、札幌の友人からだった。彼とは札幌時代に一緒にバンドをやり、ライブを何度かやった。
「7月24日に札幌に来なよ」
彼は開口一番に言った。俺が彼と一緒に組んだバンドは今でも活動しており、7月にライブを予定していたのだ。
ああ、良いかもしれない。即座にそう思った。7月末の札幌は気候も良い。久しぶりに札幌の広い空を体感して、サッポロクラシックラガーを飲み、昔自分が所属していたバンドのライブを見る。
これは理想的な札幌への旅行になるのではないか。特に観光したい場所はないけれども、札幌の街を歩くだけでも、それは充分に俺にとって楽しめるイベント足り得るのだ。

友人は言った。
「でさ。ギターで参加する?」
俺は吹き出しそうになった。なんでそうなる? 俺が友人と組んでいたバンドはホーンセクションを中心としたファンクバンドだ。トロンボーン、テナーサックス×2、ベース、ドラム、ギター(俺)の編成だった。俺が札幌から東京へ転勤となり、俺は泣く泣くバンドを脱退した。
札幌の有名なライブハウス「ペニーレイン」でライブもやれた。ニセコで野外ライブにも参加出来た。札幌を離れる直前に、ラストライブをやれたのは今でも良い思い出だ。
バンドは俺が脱退した後も、新しいギタリストを加えて活動を続けていた。

「なんの冗談だい、それは?」俺が言うと、友人は返してきた。
「冗談じゃない。どうせ来るなら、参加して演奏しなよ。このバンドはそもそも、僕がアンタと組みたくて始めたバンドなんだ。どうせ札幌来るなら演奏しなよ」
そうか。そういう考えもあるか。
「しかし、いきなり飛び入りで参加とかはメンバーに悪いな」
「大丈夫だよ。そんなことを気にするメンツじゃない」
そうかもしれない。このバンドの発起人は友人だ。彼が必要なメンバーを集め、ライブが出来そうなイベントがあると折衝し、調整作業等を全て引き受けてくれた。
ある意味、友人はバンドの父親的存在だ。そして俺はバンドの長男かもしれない。

俺と友人はSax教室で知り合った。喫煙所で煙草を吹かしながら、音楽の話をした。彼のおかげで、プロのギタリストと演奏することも出来たし、ライブバーでセッションに参加して、何曲もSaxを吹くことが出来た。そしていつのまにかバンドを組むことになっていた。思い出した。「バンドを一緒にやらないか」が切っ掛けじゃない。「あるライブイベントがあって出演バンドを募集してる。だからバンド組んでそれに出ないか?」それがスタートだった。あの時、友人には当てにしているメンバーが何人かはいただろう。だが、メンバーも確定していないのに「ライブイベントに出よう」と思い、行動してしまう、それが友人の凄さだ。

俺達が組んだバンドで、唯一俺の想定外なことがあったとしたら、俺の担当がテナーサックスじゃなくて、ギターだったことだ。テナーサックスは人が足りていたが、ギター弾きがいなかった。無論、友人は顔が広い。彼が声を掛ければ、技量のあるギタリストはいくらでも集められただろう。だが、彼はそこで「上手いけど、よく知らないギタリストよりも、下手でも気心の知れた一応ギターの弾ける男(俺)」を選んでくれたのだ。そのことには今でも感謝している。
俺のギターの腕前では、他のバンドじゃ雇ってもらえない。
だがバンドにとって一番大事なことは、同じ音楽の趣向の人間とやることでも、上手いプレイヤーと組んでやることでもない。「こいつと一緒にやったら、絶対に楽しい」そう思える相手とやることだ。少なくとも、友人は俺に対してそう思ってくれただろうし、俺も全く同じ気持ちだった。
バンドは俺が脱退した後に、新ギタリストを加え、さらにキーボードを加えた。残念ながらテナーサックスが1人脱退という状況ではある(友人はテナーサックスとボーカル担当)。

俺は考えながら言った。
「飛び入り参加するなら、ギターよりもSaxがいいかな。ギターだと機材の事とか考えなくちゃいけないし、今のギターのA君に悪い。Saxなら、マイクだけ繋げればいいし」
「判った。じゃ、Saxで参加ね」
ギター1本のバンドにもう一人ギターが加わると、互いにギター同士の兼ね合いが難しくなる。ギターが倍になるから、音が厚くなっていいだろうとはいかない。逆にギター同士の音がぶつかって、返ってギター1本よりもバンドとしてのまとまりがなくなる可能性のほうが高い。俺がバンドのリハーサルに参加出来るのならともかく、ぶっつけ本番での参加だ。ギターでの参加は事実上難しい。また、俺自身はこのバンドでは1度もSaxを吹いたことがなかった。だから、1度はSaxで皆と演奏してみたいという気持ちがあった。
それから友人とレパートリーを確認した。俺が在籍していた時にやっていた曲をまだバンドは2曲演奏していた。しかし、当時俺のパートはギター、今回はテナーサックスだ。全然パートが違う。おまけにやったことのない曲が3曲。トータルで5曲だ。
正直、残り1ヶ月で5曲は難しいなというのが本音。なんとか形になるのが3曲だろうなと俺は考えた。残りの2曲はきっとグダグダになるだろう。だが、俺がまともに吹けなかったとして、それを非難したり蔑んだりするようなメンバーじゃない。
むしろ、俺が失敗すれば、彼らは大笑いして俺を受けて入れてくれるだろう。

友人からの電話の翌日、俺は早速飛行機のチケットとホテルを予約した。
7月に札幌に行く。
そして昔の仲間と一緒に演奏をする。
これ以上にワクワクする出来事なんて、そう滅多にあるもんじゃない。