Some Were Born To Sing The Blues

Saxとジャズ、ピアノとブルース、ドラムとロックが好きなオッサンの日々の呟き

Van Halenを聴いていた頃

f:id:somewereborntosingtheblues:20201012225150j:plain

ロックギターの革命児と呼ばれる、エドワード・ヴァン・ヘイレンが亡くなった。ロック好きな人にとってはかなりの衝撃だったようで、facebookなどでは、やたらと追悼コメントを上げる人が多かった。

俺はヴァン・ヘイレンに関しては、それなりに好きといった程度で、深い思い入れがあった訳ではない。ベストアルバム一枚しか持っていない。
また、エドワード・ヴァン・ヘイレンのギタープレイの凄さ、ミュージシャンとしての偉大さは、至るところで書かれている。俺のような音楽素人が、何かを語るのも違う。
ただ、ヴァン・ヘイレンに関して、10代の頃の淡い記憶が甦ったので、それを俺からの追悼としよう。

17歳の時だった。俺は人生初めてのガールフレンドが出来て浮かれていた。もう、一日のうち25時間くらいは寝ても覚めても彼女の事ばかり。
今考えると、随分と単純な奴だなあと思うけれども、そりゃ仕方ないだろう。人生で初めてキスをした相手、そして生まれて初めて女性の裸というものを見せてくれた相手。そりゃ、頭の中が彼女一色になっても、誰が責められるだろうか。

とにかく彼女と一緒にいる時間を作りたくて、そればかりに専心していた。彼女の家に遊びに行き、ベッドに腰かけて一緒に音楽を聴く。流行っていたのが、ヴァン・ヘイレンだった。俺も彼女も格別のファンという事ではなかった。彼女はジャーニーのようなもっとポップな音楽が好きだった。
ただ、当時やたらと、ヴァン・ヘイレンの「Jump」を聴いていた記憶がある。

俺が彼女に夢中だったように、彼女も俺と一緒にいる事を喜んでいてくれたと思う。或る日、二人でどうしても一日一緒にいたくて学校をサボった。そして、ここからがよく覚えていないのだけれども、共通の友人であり、彼女の遠縁であるA君の家に遊びに行った。
A君のリビングで三人でどうでもいいようなお喋りをした事だけは記憶している。そもそも学校をサボったのだから、平日なのだが、どうしてA君が家にいたのか。その辺りが思い出せない。
俺と彼女はソファに寝っ転がって、A君はリビングの床に座っていた。A君が「おい、ソファで変な事始めるんじゃねーぞ」と冗談を飛ばしたのは覚えている。
その時、ヴァン・ヘイレンの「Jump」が流れていた。ラジオだったのか、A君がアルバムを流したのか、どちらだったろう。

あの頃、ヴァン・ヘイレンのアルバム「1984」が売れていた。先ほどの「Jump」以外にも「Panama」や「Hot For Teacher」という曲も売れていた。彼女はそのアルバムに収録された「I'll Wait」という曲を気に入っていた。この曲は他のに比べると、さほど人気がなかった。
「この曲ってラブソングなんだね。『君の気持ちは今は他の男に向かっているけれど、自分はその気持ちが冷めるのを待つよ』って歌詞なんだよ」
彼女が俺に説明してくれた。その歌詞は当時の俺の気持ちの有りように良く似ていた。

彼女は俺と付き合う前に別の恋人がいた。彼女は元恋人を「彼は今でも良い友人だから」と言った。その事で俺は嫉妬し、随分と彼女と喧嘩もした。今の俺からすれば、「昔男がいたことなんて、どうでもいいじゃねえか。今、俺に惚れてるのなら、無問題だろ」くらいの話だ。だが、17歳で初めて付き合った女性に昔の男の影があれば、それに嫉妬するのもしょうがないことだなと思う。10代の男の子なんて単純で純粋だ。

俺は一刻も早く彼女と一緒になりたくて、高校を2年で中退して働こうかと本気で考えていた。彼女もそれを望んでいた。だが、当時の俺と彼女の心理を大人が見れば「おままごとだよ。ちゃんと考えろ」と諭すだろう。
同じような相談を今の俺がされたら、俺もやはり「もう一度よく考えろ」と促すのは間違いない。

結局、俺が高校を辞める事もなく時間が過ぎ、色々あって俺と彼女は別れた。10代の頃の恋愛なんて、ある種の幻想であり夢想なんだと思う。無論、成就すればそれに越した事はないが、叶わなくても、そういった事実があったというだけでも充分だ。

あの時、高校を辞めて働いて、彼女と一緒になっていたら、どんな人生になっていた事だろう。それは誰にも判らない。そして、人生にはやり直しのIFはない。
彼女は今は子供も孫もいる。歳相応の病気にも罹ったりしているようだが、それはもはや俺が関知出来る事じゃない。彼女と彼女の家族の問題だ。
5年以上前に、偶然遣り取りする機会があった。彼女に問われた。
「もう結婚したの?」
「ああ」
「それは良かった。貴方を想ってくれる人が、貴方には必要よ」
それ以来、彼女とは連絡は取っていない。今後も取るつもりもない。だが、それで良いのだ。淡い想い出は引きずり出すべきものじゃない。

ヴァン・ヘイレンの「Jump」を聴くと、当時の事を思い出す。そして「若かったな、あの頃は」と感慨に耽る。あの頃を思い出して、何かやり残したとは思わない。
ただ、そういった日々を持てた事は、充分に価値のあるものだった。俺はそう思うのだ。