Some Were Born To Sing The Blues

Saxとジャズ、ピアノとブルース、ドラムとロックが好きなオッサンの日々の呟き

高嶺の花

20代の時、初めて勤めた会社に、一回り以上年上の女性がいた。
身長が170センチ近い。スリムで背が高いなぁというのが第一印象。ショートカットで、きりっとした雰囲気を漂わせていて、近寄りがたいオーラを発していた。タイトスカートから伸びた、すらりとした長い脚が魅力的だった。
他の社員たちが彼女と談笑している時も、俺はちょっと離れたところから彼女を見ていた。要するに「憧れの君」という奴だ。
俺にとって、彼女は高嶺の花。

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ある時、何かのきっかけで彼女とお喋りする事が出来た。俺は調子に乗って「***さん、今度飲みに行きましょうよ!」と誘った。勿論、OKが貰えるとは思ってはいない。
「いいわよ。いつにする?」
逆にこっちが驚いた。あの後、自席に戻ったら、同僚に「お前、なんか顔が赤いぞ」とからかわれたのを今でもよく覚えている。

憧れの対象は、憧れのままにしておくのが良い、とよく言われる。その言葉の真意は判らなくもない。こちらが勝手に偶像化して、崇高で気高いイメージを作り上げてしまい、そのイメージが崩れた時に、これまた勝手に失望するなんて事もよくあるからだ。

以前、ハリウッドで女優がストーカーに殺害されるという事件があった。ある女優が処女の女子高生を演じていたのだが、その彼女のスキャンダルがマスコミに報じられた(日本で言えば、文春にプライベートのベッドシーンの写真が載るようなものか)。すると彼女のファンだった男が女優をピストルで射殺したのだ。
「彼女が処女だと思っていたのに、あんなふしだらな女だとは思わなかったから、天誅を下したのだ」と犯人は述べている。恐ろしい思い込みである。

高嶺の花と出会ったら、こちらが取るべき方法は二つに一つしかない。
そっと遠くから見守り続けるか、高嶺の花が実はどこにもで咲いているぺんぺん草だと判っても、変わらずに愛でるかのどちらかだ。

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Gibson(ギターメーカー)に【ハミングバード】というアコースティックギター(以下、アコギ)がある。俺の憧れのギターだ。前から良いなあと思っていたが、大体相場が30万円後半から40万円前半くらい。簡単に手の出る代物じゃない。正しく俺にとっての高嶺の花。
40万円は、清水の舞台から飛び降りた気になれば、準備出来ない金じゃない。ただし、アコギに使えるかというと、これはかなり心理的葛藤がある。俺の趣味がアコギによる弾き語りだったら、無条件で買っただろう。だが、俺の楽器演奏のヒエラルキーで、アコギはかなり低い。最上位は、サックスだ。俺の愛用しているテナーサックスが35万円なのに、それより高いアコギを購入するのは、ためらわれる。

とりあえず、一回弾きに行ってみよう。昨日、楽器屋さんへ行ってみた。
ハミングバードをじっと見る。もう、この店でこの楽器は何度も眺めているのだ。うむ、いいギターであるなや。店員に声を掛けられたので、せっかくだから、試奏させて貰う。
ん? ちょっとイメージと違った。これは説明がしづらいのだけれども、ピンと来なかった。楽器というのは(ギターに限らず)、楽器本体と演奏者の相性というものがある。
だから、人によっては50万円の楽器よりも5万円のほうが、好みに合う場合もある。

帰宅してから、何年か使用している安物のアコギを弾いてみた。あ、こっちのほうがしっくり来るなあ。俺には40万円のハミングバードよりも、4万円の安物のアコギのほうが似合うって事か…

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と、昨日は思ったのだけれども、今このエントリを書きながら気づいた。
家のアコギって、要するに長年連れ添った女房みたいなもんじゃん。もう相性から何から全て判りきってる(良い点も、悪い点も)。だから安心感があって当然だ。
それに比べて、昨日試奏させて貰ったハミングバードなんて、まだ一回デートして軽く酒飲んだだけじゃん、キスもしてなけりゃ、手も繋いでない状態だ。
そんな「憧れの君」を一回だけのデートで判断してよいはずがないだろう。

楽器選定も女性とのお付き合いも一緒である。一回で答えが出るはずがない(誰の言葉? 俺の言葉だよ)。
そもそも、40万の楽器をおいそれと思いつきで買える訳もないのだ。慌てずにじっくり行こう。

蛇足ながら、20代の時の職場の憧れの女性とはその後、酒を飲みに行った。この場合は何故か、一回で彼女の魅力にノックアウトされてしまった。
楽器選定も女性とのお付き合いも一緒である。惚れる時は、考える間もなく、恋に落ちる(さっきの言説と矛盾してるが、細かい事は気にするな)。