Some Were Born To Sing The Blues

Saxとジャズ、ピアノとブルース、ドラムとロックが好きなオッサンの日々の呟き

見えざるものが見えるということ

前回の部屋探しの話で、相方の持っている特殊な能力のことをちょっと書いた。

リモート部屋探し - Some Were Born To Sing The Blues

すると「自分の知り合いに、そういった能力を持った人がいる」とコメントを下さった方が複数いた。
そうか、この能力は格別珍しくないのかと思ったが、いややはり珍しいだろう。

これも何かの縁だから、相方の特殊な能力について、差しさわりのないレベルで書いておこう。

相方と付き合い始めて最初の頃だから、もう14年以上前の話になる。
居酒屋で一緒に酒を飲んでいた時に、相方が「私、普通の人が見えないものが見えちゃうんだよね」と話し出した。その話になった切っ掛けは覚えていない。何かの流れでそうなったのか、相方があらかじめ俺にその能力の事を伝えておこうと思っていたのか、その辺りは記憶にない。

相方は高校生の頃、喫茶店でアルバイトをしていたのだと言う。いわゆるウエイトレスという奴だ。
客が4人入ってくる。お水とお絞りを4つ持って、テーブルに置く。すると客が怪訝な顔をする。その時、相方は「あー、やっちゃった」と思うそうだ。
「その4人目ってさ、他の3人と違いはないの。白っぽいとか影が薄いとかさ」俺が尋ねると、相方は首を横に振る。
「他の人と全く同じに見えるんだよね。だから始末悪い」
区別がつかないんじゃ、判断の仕様がない。それは困った話だ。

相方がまだ10代だった頃、家に母親(相方の実母)の知り合いが訪ねてきたと言う。いわゆる「死相」というものが、その来客には浮かんでいたらしい。
相方は母親に「あの人、もうすぐ死んじゃうよ」と伝えると、母親に激怒されたという。ま、そりゃそうだわな。
それ以来、相方は仮にそういったものが見えても、人には言わないようになったとか。その来客はやはり相方の見立て通りの結果となったらしい。

また、生霊というのもよく見えるそうだ。
何か強い想いがあると、それが生霊となるらしい。この辺りは俺も相方の話を聴いただけなので、詳しくは説明出来ない。
既に相方と一緒になってからだが、在宅中に、俺の昔の恋人がLINEでメッセージを送ってきた。内容はもう忘れたが、ようは大変な事が多くて辛い、貴方と付き合っていた頃は楽しかった、みたいな文章だった。内容はヘビィだったが、慰めるような事を言うのもどうかと思い、適当な言葉を返した。そもそも、昔の恋人とLINEしているという事自体がルール違反ではあるが。
相方は帰宅してから、すぐに異変に気付いたようで、俺に言った。
「アンタの昔の女の生霊がこの部屋にいるよ。甘い事言って慰めちゃ駄目だよ。居つくから」

勿論、相方は俺の事なんかお見通しだから、俺のスマホや携帯電話を覗いた事などない。その必要がないからだ。俺を見てれば、そういった事は全て判ってしまう。
相方と付き合い始めたばかりの頃、迂闊に昔の恋人から貰ったファッションリングをしていた事があった。相方は俺を見て、すぐに反応した。
「なんで昔の女から貰った指輪してくるの?」
激怒された。相方はちょっと見せてと言って、俺の指輪に触れた。10秒くらい触っていたか。
その後、相方は「ふーん」とだけ短く言った。俺は怖くて「何が見えたの?」とは訊けなかった。指輪は勿論、処分した。

そういった能力はやはり10代の頃がピークで、年齢を重ねるごとに落ちて行くと言う。
「スポーツ選手の筋肉みたいなもんだから。鍛えないと駄目になっちゃうんだよね」
「勿体ないね。せっかくだから、鍛えて占い師とかやればいいのに。政治家とかの専属占い師とかになって、大金持ちになれるぞ」
俺は軽口を叩いた。相方が言う。
「そういった本来見えないものが見えるのって、結構辛いよ。見たくないものを見ていると、心も淀んでくるし」
そうだよね、俺は頷いた。

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宮部みゆきという作家の小説に「龍は眠る」という作品がある。これは人の心が読めたりする超能力者を主人公とした話だ。俺はこの作品を読むまで「超能力っていいよな。人の心読めたり、瞬間移動出来たら、ウハウハじゃん」とか阿保みたいに思っていた。
だが、そうじゃない。見えないものが見えるというのは、決して良いことばかりじゃない。相手の悪意だって見えてしまうのだ。
人は、本音と建て前を使い分けて、お世辞を言い、嫌な相手とは距離を置く等の知恵を使う事によって、生きているのだ。
世の中は良いこともあるが、邪悪なものも満ち溢れている。それらを全てアンテナが拾っていたら、辛くて仕方がない。

こういった能力に対して懐疑的な人もいるだろう。信じない人が一定数いるのも理解出来る。俺はそういった能力を持った人がいる事や、そういった能力がある事を信じてくれなどと言うつもりはない。
信じて貰う必要もない。
俺は目の前でそれらを見たのだ。これは信じる、信じないの世界じゃない。俺に取っては真実なのだ。