1月3日から4日にかけて、鎌倉プリンスホテルに宿泊してきた。ここ数年は大晦日~元日に温泉宿に泊まり、初富士山を眺めるのを慣例化してきたが、今年は1月3日に宿泊である。
なぜ大晦日、元日ではないかと言うと、物凄く単純に鎌倉プリンスホテルの予約が取れなかったからだ。また相方に言わせると、大晦日~元日の宿泊は一年で一番宿泊料金が高く、洒落にならない金額だと言う。
さらに衝撃的な発言として、鎌倉プリンスホテルには温泉がない、そして夕食もつかない。夕食はホテル内の高級レストランを利用する手もあるが、何しろ「高級」なのだ。一人、うん万円のディナーになるとか。そんなに払えるか!
去年、非常に安いホテルに泊まり、夕食の不味さに辟易したが、宿泊代とは別に数万円もする晩飯は食えない(払えない)。極端すぎるんだよ。ちょうど良い塩梅のホテルだってあるだろうに…
相方が鎌倉プリンスホテルを選択した理由は、部屋から「江ノ島と富士山が見える」という理由のみによる。相方はこよなく富士山を愛する女である。多分、相方がこの世で二番目に愛しているのが富士山だと思う。で、一番は当然の事として「金(かね)」だ。相方のような守銭奴が、よく俺のような貧乏サラリーマンと一緒になったものである。
夕食が付かないので、ホテル近くにあるハワイアンレストランで夕食を摂ろうと相方は提案してきた。レストランのラストオーダーが17時くらいなので、その時間に食事をすると夜にお腹が空く。だから、途中で夜食を買うという作戦にするらしい。特に反対する理由もないので、そのプランに賛成する。
横浜に引っ越してきて一年が過ぎた。ここで暮らすメリットとして、鎌倉、江の島が近いという点が上げられる。相方とお昼過ぎの電車に乗る。鎌倉まで行き、そこで昼食を摂り、夜食を仕入れて江ノ電に乗るという計画である。電車はそこそこ混んでいたが、相方と二人並んで座れたので無駄話をしたり、互いにスマホを見たり…
次の駅で若いカップルが乗り込んできて、俺達の前に立った。何の気なしにふと女性を見るとバッグに例のマタニティカード(お腹に赤ちゃんがいます)をぶら下げている。
またかよ! 俺は立ち上がり、女性に席を譲る。先月からこれでトータル三回、妊婦に席を譲っている計算だ。あと、白い杖をついた男性にも席を譲っているので、トータル四回席を譲っている。老人一歩手前の俺ではあるが、まだ健康な男性なので、席を譲り、立つことは構わない。だが、何故妊婦さんはやたらと俺の前に立つのだろうか。
あとで相方に「俺この一ヶ月ちょっとで三回妊婦さんに席譲ってるんだけど」と言うと、相方は「そういう引き寄せみたいなのが夫にはあるんだよー」と笑っていた。ホントかよ?
鎌倉に到着し、メインストリートである鎌倉小町通りに行く。
ここには飲食店が多数ある。想定以上に混んでいた。3日だし、もういい加減程よい混み具合かと思ったら、まるで芋洗い場である。ここでランチを摂る想定だったが、相方と「これは無理だね。諦めよう」となる。俺が「ああ、シラス丼喰いたかったなぁ…」とずっと愚痴っていると、相方が「シラス丼なら家でも食べれるじゃん」と風情のない事を言う。俺は「鎌倉や江ノ島でシラス丼喰うから意味あるんじゃん」と反論。
登山の時に頂上で食べるカップラーメンが滅茶苦茶美味いのと同じ理屈だ。俺、登山した事ないけどな。
駅前にパン屋さんがあったので、夜食用のパンを買う。二人とも空腹なので必要以上に購入してしまった。これは空腹あるあるだと思う。
とりあえず江ノ電に乗って七里ヶ浜駅を目指す。江ノ電のホームも人が溢れている。インバウンドな人々も多い。いわゆる中国、韓国以外のアジア圏の観光客の多さが目に付く。
「混んでるねー。これ次の電車に乗れるかなあ」相方が不安そうに呟く。江ノ電は本数があまりないので、出来れば次のやつに乗りたい。運良く乗ることが出来た。朝の通勤ラッシュ並みの混み具合である。
七里ヶ浜駅で下車し、海を見ながらのんびりとホテルを目指す。しかし食い物屋が全然ないなあ。相方調べだと3日はまだ海沿いのレストランが開いておらず、目当てのハワイアンレストランくらいしか営業していないのだと言う。
コンビニはあったが、さすがにコンビニ飯は嫌だな…と思っていると、相方が「お昼食べ損ねたし、ハワイアンでランチ摂ろうよ」と言う。
目当てのハワイアンレストランに行くと、かなり混んでいた。相方が「ここしかやってないから、一極集中になるんだなあ」としょんぼりしている。
「しょうがないから、テイクアウトしてホテルの部屋で食べようか」と相方のアイディアに俺も頷く。部屋のほうが落ち着いて食えるだろう。冬でなければ、オープンカフェで海を見ながら食べるランチも楽しいと思うのだが、いかんせん外で食べるには寒すぎる。
いわゆるワンプレート料理がボックスに入れて貰えるのだが、俺達は空腹なあまり「一人一品プラスもう一つ頼んでシェアしようよ」と言う。俺もどうせ一品の量は少ないだろうから、そのくらいで(一人、1.5人前)ちょうど良いだろうと勝手に思い込んでいた。これもまた、空腹のせいだ。おまけに相方はさらに「ねえ、パンケーキ買ってもいい?」と言い出す。二人揃って空腹なので自分の胃袋のキャパシティをまるっきり無視している。
この辺りからだと、江ノ島がよく見える。これで曇ってさえいなければ最高の景色なんだが…
テイクアウトの大量の料理を抱えてホテルに到着。ホテルはなかなか落ち着いた感じである。レセプションホールは見事なまでに正月モードになっている。
部屋の雰囲気も悪くない。厚手のカーテンが引かれている。
「ねえ、なんでカーテン閉まってるか知ってる?」
「知らない」
「景色が良いから、カーテンを自ら引いて、その景色を楽しむためなんだってー」
どうせ、フロントで従業員の人に教えて貰った情報だろう。
カーテンを開けて、外の景色を見ると、確かに良い感じだ。海が見えて、遠くに江ノ島が見える。しかしこの日は曇り空で肝心の富士山が見えない。天気さえ良ければ、向かって江ノ島の右側に富士が見えるのに…残念過ぎる。下の写真の赤枠辺りに富士が見えるらしい。
「駄目だねー。明日に期待だなあ…」相方が露骨にがっかりする。
とりあえず腹が減っているので、ランチである。俺はチキンプレート、相方はチキン/ガーリックシュリンププレートを購入した。そして、二人でシェアする予定でカルアピッグプレート(茹でた豚らしい)とパンケーキ。
一品、1,600円前後するので、トータルで6,500円程度掛かった。正直安くはないが、観光地価格ということを考えれば妥当なのかもしれない。とは言え、俺の普段のランチ代は500円に納まるように努力しているのだが。
いや、日常のランチ代金と旅行に来てのランチを同じに考えてはいけない。
二人でそれぞれ食べ始めて、思った以上に量が多いことに気付く。これはとてもではないが、茹で豚は無理だ。一人一品で充分に腹が膨れた。やはり、空腹の時に食い物を購入してはいけない。自分のキャパシティ以上に買ってしまう。しかし相方は何故か「ねえ、パンケーキ食べていい?」とデザートにパンケーキを一枚食べていた。満腹中枢が壊れたのであろうか?
プリンスホテルには温泉がない。それは最初から判っていたし、その代替として、翌日は江ノ島に行って温泉に入ろうと計画していた。それで事足りると思っていたのだ。だが、実は宿泊施設に温泉がないと、大きなイベントが欠落しているのだという事に俺達は気づいた。
通常ホテルには15時過ぎくらいにチェックインする。一時間程ダラダラしたり、ホテル近くを散歩したりして過ごす。そこから晩御飯までの時間にまず温泉に入る。そしてホテル内のレストラン、或いは部屋で晩御飯。食後に腹休めをして二度目の温泉。これが通常の俺達のパターンだった。つまり温泉があってホテル内で晩御飯を摂ることが可能なら、これで初日の夜はほぼほぼスケジュールが埋まるのである。
ところが、温泉のないホテルに泊まり、晩御飯も別途自分達で調達するとなると、この流れが全て無くなる。おまけに昼ご飯を鎌倉で食べ損ねたせいで、15時過ぎにランチを食べるという滅茶苦茶なタイムラインとなった。
「ねえ、もうやること無くなったよ…」相方が言う。そうだなあと思っても何もやることはない。仕方がないので、テレビのお笑い番組などを点けっぱなしにして、二人ともベッドに寝っ転がり、スマホを弄るという堕落した時間を過ごす。
俺は多分、昼寝をしていたと思う。相方から「夕焼けが綺麗だよー」と起こされ、夕陽の写真を収める。ううむ、なかなか綺麗だな。
夜になると江ノ島のライトアップが遠くに見える。これもまた風情があって良い。
暇人が太るという言葉の意味がよく判った。夜になってもやることがないので、俺達は再び残った食事を摂ることにした。相方はパンケーキ、俺はカルアピッグプレートを食べる。昼ご飯を食べた時間から逆算すると腹が減るような時間じゃない。だが、暇でやることがないのと、多分満腹中枢が壊れたのか、俺達は完食した。鎌倉プリンスホテルの近くに繁華街や夜観光出来るようなスポットがあれば良かったのだが、ホテルの周りには海しかない。このホテルに泊まる人は何を目当てに泊まるのだろうか。不思議である。
そうして特に何をする訳でもなく、だらだらと過ごしてこの日の夜は終了した。曇っていたせいで、部屋から江ノ島と富士山を眺めるという相方の野望はあっさりと崩れ去ったのであった…(翌日へ続く)