Some Were Born To Sing The Blues

Saxとジャズ、ピアノとブルース、ドラムとロックが好きなオッサンの日々の呟き

恋人と別れて30年が過ぎ、その元恋人の娘と出逢う夜

古い友人であるShellyからメッセージが届いた。「私の娘のAdrienneが日本に行くのだけれど、時間取って彼女と会ってくれるかしら?」 Shellyはアメリカ在住の白人女性だ。
Shellyと俺との関わり合いは、過去に書いた。こちらを参照のこと。
25歳に戻れた夜~ブライアン・アダムスのライブを見て来た - Some Were Born To Sing The Blues
Adrienneは、東京と京都を訪問するのだと言う。そこで俺は東京のお薦め観光スポットとして、浅草寺、東京スカイツリーの観光案内サイトのリンクを送り、英語の説明文を付けた。
また、どうせ食事をするのなら、居酒屋が良いと居酒屋紹介サイト(ここは最初から英語で説明があった)のリンクをメッセンジャーで送る。
日本に来て、ピザやハンバーガーを喰っても仕方あるまい。どうせなら、日本でしか喰えないものを経験させてやりたい。

火曜の夕方に日本に到着とのこと。フライトというのは大抵遅れるし、リムジンバスも遅れる。時間が読めない。だから、彼らの滞在するホテル近辺で良さそうな居酒屋を予約出来ないのが辛いところだ。ましてや火曜の夜は翌日が春分の日だから、飲み屋は混む。タイミングがよろしくない。

Adrienneから、「私とパートナーはホテルにもうすぐ着く」とメッセージが届いた。「ロビーで会おう」と返信し、ロビーのソファで待つ。5分程待ったところで、Adrienneとボーイフレンド(彼らはパートナーと呼んでいた)が到着。
"nice to meet you"とお約束の挨拶を交わした後、「君達を居酒屋に連れて行く。せっかくだから日本でしか食べられないものを食べさせるよ」と告げる。

最初に目ぼしをつけておいた、新潟の美味い刺身を喰わせる店は、いっぱいでいつ空くか判らないと言う。これは諦めて他の店にしよう。
あまりホテルから離れると、2人が戻るのに苦労するだろう。次に現在地から1番近い店に行く。すると、10分から15分待ってくれれば入れると言う。今更歩き回って時間を費やすのも勿体ない。またほかの店に行っても確実に入れる保証もない。この店は明らかに安い大衆居酒屋といった感じだが、そういったのもアメリカ人には新鮮かもしれない。俺には見飽きた光景だが。10分程待って無事に入店。
(下の画像は実際に撮った写真じゃなくて、イメージ図ね。こんな感じの店内。実際はお客さんがいっぱいだったから、活気づいていた)

「何を飲む? やっぱりアメリカ人はビールかな?」と尋ねると、「ビールはいいね!」との返事が。俺が「Sake(日本酒)はアメリカでも飲めるでしょう。だから、ビールの後は、日本でしか飲めないアルコールを注文するね」と伝える。

最初はビールで乾杯。お約束の「Cheersは日本語で何て言うの?」、「KANPAIだよ」、「かんぱーい!」
そしてまずは焼き鳥を注文。ネギマと卵の黄身付きのつくね。彼らは非常に気に入ったようだった。料理の注文に関しては、俺に一任させて貰った。
(AdrienneとパートナーのIsaiah)

「せっかく日本のバー(居酒屋)に来たんだから、ピザとか食べるより、日本でしか食べられないものを注文するね」と告げる。餃子、蛸の南蛮揚げ、シシャモのフライとまずアメリカでは食べられないであろう料理を注文。
AdrienneのボーイフレンドのIsaiah君は「僕は魚を食べたことがないんだ」と言う。日本人からすると、「魚を人生で喰ったことがないなんてあり得るのか?」と思うかもしれないが、世の中には色々な種類の人がいるのだ。

Adrienneはシシャモのフライを取り、「これは頭から全部食べるの?」と訊いてくる。「そうだよ、頭から尻尾まで全部食べるんだ」
俺達からすれば、シシャモのフライなんて丸かじりが当然だ。だがアメリカ人からすると、これは一体どこを喰えばいいのだろう? という疑問が湧くのも、これまた当然のこと。Isaiah君は、シシャモのフライは駄目だったらしい…
蛸の南蛮上げは「美味しい」と言っていたけれど。

次に、俺は全員分のホッピーを注文する。これは絶対にアメリカでは飲めない代物だろう。
「昔、日本が貧しかった頃、ビールは高かったから、ビールに代わる飲み物として、これを発明したんだ」と説明する。Adrienneは、ホッピーと中を見て「これ、どっちもお酒? いわゆるダイナマイト?(ビールにテキーラを入れて飲むという危険なカクテル。日本だと爆弾と言ったりする)」とびっくりしている。
「いや、こっちの茶色の瓶にはアルコールは入っていない。見てごらん」と作り方を教える。と言っても、焼酎の入ったジョッキにホッピーを入れてシェイクするだけだが。ホッピーはあまり人気がなかった模様。

居酒屋と言えば、厚焼き玉子かなと思い、明太子のクリームが掛かった卵焼きを注文。「このピンク色の奴は、魚の卵だよ。だからEgg on Egg だ」と説明する。彼らは「ああ、オムレツね。日本のオムレツはアメリカのと違って、フワフワね」と喜んでいる。
そうだ、と思い、エイヒレを注文。エイヒレがやってくる。彼らに「日本人の酒飲みはエイヒレが好きなんだ。無論、俺も好きだ」と力説する。
さすがに「エイヒレ」の英語訳が判らないので、翻訳サイトで訳した単語を見せる。彼らは「Stingray finを喰うのか!」と衝撃を受けていた。

その後、やはり日本でしか飲めないものということで、梅干しサワー(生の梅干しが入っていて、マドラーで梅干しを潰して飲むやつ)を注文。Adrienneは梅干しサワーが気に入ったようで、この後は、こればかり飲んでいた。

彼らに「日本を旅行先に選んだのは何故だい。アジアには中国や韓国、他にも色々国がある」と訊いてみる。ボーイフレンドが「僕らは柔術をやるんです。日本の古い歴史にも興味があったので、是非とも日本に来たかった」と教えてくれる。
彼は「2人の出逢いは、柔術で組手をしたら、彼女の手が偶然僕の股のところに伸びて来たんです。で、そこから…」
俺は大笑いした。どんな出逢いやねん?

Adrienneから「ママとはどんな切っ掛けで知り合ったの?」と訊かれ、実際の話をしてやる。同僚が英会話教室に通いたいからと、付き添いで付いて行った。そこの受付をしていたのが君の母親だよ。たまたまお喋りしたら、バーに誘われて飲みに行って…(その後は書くまでもあるまい)。日米と人は違えど、男と女の出逢いの切っ掛けなんて変わらないんだよなあ。

Adrienneに対して「これを君に言うのは適切か判らないんだけれども。もし、俺とShellyがもっと付き合っていたら、君は生まれていないかもしれない。そしたら今ここで俺達は3人で飲んでいないかもしれない。人生というのはとても不思議だなと思っているよ」と告げる。Adrienneは深く頷いていた。

話している最中に1度間違えて、AdrienneをShellyと呼んでしまった。慌てて謝ると、Adrienneは「私とママってそっくりなのよね。見た目も何もかも」と言う。そうだな。俺はAdrienneの中に、若き頃のShellyを見たのかもしれない。

約3時間弱、3人で色々な話をした。彼らは「日本初日の夜に居酒屋に来られて、色々食べられて完璧だったよ」と言う。彼らは、おごらせてくれと言ったが、こっちのほうが遥かに年上なのだ。日本では、おっさんが若者に奢るのは当然のお約束、流儀である。
「だったら、旅行先の写真を送ってくれ。それで交換取引にしよう。deal?(商談成立)」と笑い合う。

最後に2人とハグをして別れる。
俺は居酒屋で撮った写真をShellyに送る。”今日は3人で楽しい時間を過ごすことが出来た”と。

アメリカで暮らしていた時期に、アメリカ人と交際をし、色々あって別れ、そして30年の月日が過ぎた後に、その元恋人の娘と日本で食事を一緒にする。

自分の母親の元恋人と食事をすることが出来る女性は世の中にどれだけいるだろう。
自分の元恋人の娘とそしてそのボーイフレンドと、なんのわだかまりもなく、純粋に酒を楽しめるオヤジが世の中にどれだけいるだろうか。

考えてみると、これはとても僥倖なことなのかもしれない。俺は物凄く、運の良い男なんじゃないか、そう思う。