Some Were Born To Sing The Blues

Saxとジャズ、ピアノとブルース、ドラムとロックが好きなオッサンの日々の呟き

シングルマザーに捧げる鎮魂歌

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多分、もう生きてはいないのだろうな。
俺はなんとなくそう思った。去年の9月のことだ。彼女の誕生日が来ていた。俺はLineで「誕生日おめでとう」とメッセージを送った。メッセージはいつまで経っても既読にならなかった。
それから1年が過ぎた。俺のメッセージに「既読マーク」がつくことはなかった。

彼女と俺が関わっていたのは、ほぼ20年くらい前になる。判り易く言えば、付き合っていた。それだけのことだ。彼女と付き合っていた期間は半年にも満たない。別れた理由は色々あるが、一言で表せば「合わなかった」ということになるのだろう。
俺と彼女が異性間の友人だったら、上手く行っていただろうと思う。だが、男と女としての相性は良くなかった。そうとしか言いようがない。

上手くいかなかった理由の一つに、彼女が俺に依存し過ぎていたというのはあるかもしれない。そして当時の俺は、恋人以外との付き合いを平気で優先するような男だった。もうこの時点で上手くいく要素がどこにもない気がする。付き合うべきでない男女が付き合ったのだとしか思えない。
彼女からすれば、自分を放置して女性が参加する飲み会に出掛ける俺のことが許せなかっただろう。俺からしたら、俺の趣味の集まりの世界に、口を出すんじゃねえよという怒りのようなのものがあった。
どうやっても上手くいく世界が描けるとは思えない。

互いの気持ちがすれ違い、俺はこの関係を続けるのが苦痛でしかなくなっていた。一度は好きだと想った相手だ。一緒にいて楽しいと思えた相手だ。その人とやり取りをするのが、俺にとって心を削るような時間にしかならなくなっていた。
別れを告げると、散々に罵られた。「好きだと言ったじゃない。ずっと一緒にいてくれるって言ったじゃない!」彼女は泣きながら言った。俺は彼女の訴えを聴きながら、確かにあの頃はそう思った、でも気持ちは変わるものだろう、仕方ないだろう、そんな投げ遣りな気持ちになっていた。

あまりにも、互いに求めているものが違い過ぎていた。最初は同じだったのかもしれないが、どこからか歯車が狂い始め、どうやっても修正が効かないところまでいっていた。
「悪いところがあったら言って。直すから」
彼女に言われた。だが、男と女の関係において、直して貰えばその後の関係が修復出来るのだろうか、俺には判らない。そしてその悪い点というのは、片方だけに非があるのか、それも俺には判らない。

彼女はシングルマザーだった。
知り合った時、俺はそれを知らなかった。付き合い始めた時も知らなかった。付き合い始めて暫くしてから、それを聴かされた。騙されたとは思わなかった。俺だって彼女と知り合った時は既にバツが一つあった(詳細は書かない、訊かないように)。清廉潔白な人なんてどこにもいない。
俺と彼女が上手くいかなかったのに、子供の存在は関係ない。それ以前の問題だ。
彼女の息子(子供は男の子だった)とは、ドラゴンクエストの攻略方法を伝授したりと良い関係が出来てはいたと思う。彼女は息子に俺の事を「お兄さん」と伝えていた。息子君は俺を「***兄さん」と呼んでくれた。当時、小学生低学年の彼に、俺が母親の恋人だということは認識出来たのだろうか…
彼女にとって息子は自慢だった。俺との会話でも、いつも息子の話が出て来た。母親が一番愛しているのは、自分の息子なのだということがよく判った。世の中にマザコンの人が多数出るのも仕方ないと思えるような話だった。

別れた時に彼女から言われた。「もう、男と女としては無理かもしれんけど、友達としては付き合って欲しい」俺はそういった関係が世の中にあるのかよく判らなかった。だが、拒む理由もなかった。
彼女から「新しい男出来たんよ。本当はアンタが一番なんやけど」とも言われた。新しい男との馴れ初めやデート話に仕事中に付き合ったな、そういえば。

それから時が過ぎ、彼女から命に関わる病気に罹っていると知らされた。俺が出来ることなぞ、彼女のお喋りに付き合い、時にメッセージを送ることくらいしかない。他に出来ることなどある訳がない。

数日前、彼女がLineのタイムライン投稿(不特定多数?にむけて発言するメッセージのようなもの)をしているのに気づいた。投稿したのは息子君だった。母親が亡くなった報告と感謝の言葉が綴られている。その投稿は1年前のものだった。俺は1年間、彼女が亡くなった事実を知らずにいた。
20年前にドラクエの話で盛り上がった小学生は、自分の母親の報告を出来る大人になっていた。
よくやったよ。自慢の息子は立派に育ったと思う。「うちの息子、最高やろ?」俺は頷くより他にない。

ま、よく頑張った。とりあえずゆっくり休め。