だから、何度言ってもウチの気は変わらへんよ。もう、帰って欲しいんやけど。
しつこいなあ。何度も言うとるやろ。ウチ、しつこい男は嫌いやて。
本気、へえ本気なんか。ウチも本気やったで。アンタがこの店に来てくれてる間は。
そりゃそうやろ。だって、大事な金の成る木やったもん、アンタ。
お金は持ってるし、カードはアメックスのゴールドやし、店の子にチップは弾むし。
だから冗談はやめてくれへん。東京もんはそういう冗談が通用するかもしれへんけど、こっちじゃ通らへんのよ。
本気？ 本気ってなんやねん。
たった一度、アンタのモノをしゃぶってあげただけやないの。
アンタをウチの中でいかせてあげただけやないの。
そんなのよくあるこっちゃ。ウチ、誰とでもやっとるよ。ちょっと酔うて、色男さんならね。
へえ、アンタ自分だけが特別や思うてた？ 自惚れんのも大概にしとき。
昨日だって、ミナミから来た若い兄ちゃんとホテル行ったわ。もう、激しくて疲れたわ。
痛っ。殴ったな、ウチを殴ったな。ゴメンやて？ ゴメンで済む思うとるんか？
ウチが声掛けりゃ、その辺の若い衆が5、6人すぐ来るで。そしたら、アンタ簀巻きやで。ええんか、それでも。
まだいたんか。早う東京へお帰り。こんなとこいちゃアカンよ。怖い兄さん、沢山来るよ。
だから、聞き飽きたって。本気？ だから、その言葉も聞き飽きた言うとるやろ。
愛してる？
勘弁してくれへんか。うちらの商売じゃ、それ挨拶代わりやで。ウチだって誰にでも言うとる。
朝来るおしぼり屋の兄ちゃんにも言うとるわ、ウチ。
明日の朝の新幹線で帰る？ そう、良かったやないの。これで、アンタもエリートさんや。
きちっと仕事片づけて、花の都の東京へ凱旋帰国やね。
もう、これで汚い街ともお別れやないの。よかったやん。なんや？ まだ、なんかあるん？
だから、冗談キツイ言うとるでしょ。
アンタは東京の大企業のエリートさん。あと半年もすれば部下も持つ身。課長さんやないの。
アメリカに栄転やないの。なんて言うたかな、そうそうニューヨーク支社に行くんやろ。
まだ25なのに。若いのに、凄いわあ。
ウチはミナミの汚いスナックのママ。もう30過ぎたおばちゃんや。
アンタみたいな将来有望なヒトとは釣り合わへん。アンタのご両親が許さへんわ。
ウチ、15ン時から男に抱かれとるんよ。今までに何人の男の前で足開いたか、憶えとらんわ。
そんな女やで。薄汚れてるんよ。
アンタが思うような女やないんよ。
だから、もう東京帰ってよ。
お願いだから、これ以上ウチの周りウロチョロせんといて。
いい夢見させて貰った思うわ。ホンマ、ええ夢やった。
電車、あと何分？ そう、お茶でも飲んでく？ ええの？
アメリカ行っても頑張ってな。ウチ、ここで応援しとるわ。
だから、しつこいな、アメリカは一緒には行けへんて。英語、全然わからへんもん。
あ、もう時間か。そうか。じゃあ、もう二度と逢う事もない思うけど、元気でな。
手放してよ。放してったら。
アンタ、電車遅れるよ。
手放してったら。
泣いてへん、泣いてへんよ。
これ、涙ちゃうで。ほんまやで。ウチが泣くわけないやろ。
目にゴミが入っただけや。
あかん。あかんなあ。涙止まらへんわ。
かんにんな。笑って見送ったろ思うてんのに。
ホンマかんにんな。
なんで笑うん？ ウチが泣くのがそんなにおかしいか。
「俺に惚れてるんだろ」って。アホ、アンタみたいな小僧に惚れる訳ないやろ。
でも、それでええよ。そういうことにしといちゃる。
覚悟しとけよ、東京の女みたいに甘くないからな、ウチは。
