Some Were Born To Sing The Blues

酒好き(2017年秋に断酒を宣言)、音楽好きな中年のおっさんの日々の呟き。趣味はテナーサックスとドラム。2016年冬に50歳目前で札幌に引越す。2017年春にピアノを始めた。そして2019年6月に東京で一人暮らしを開始。2020年10月に神奈川に移り住む。生々流転の日々。

「異邦の騎士」を読んで「浪漫の騎士」を聴く

アルバム(CD)を買う場合、大抵は次のパターンが多いと思う。
・好きなミュージシャンの新譜。
・好きになったミュージシャンが過去に発表したアルバムだが、未購入のもの。
さらにありがちなのが、友人知人から勧められて。
「@@@が好きなら、きっと***も気に入ると思うよ」
俺はネットで会ったこともない人から「ローリングストーンズが好きなら、シェリル・クロウは気に入ると思います」と言われて、シェリル・クロウのアルバムを買った。そして見事に嵌った。その後、シェリルを勧めてくれた人と一緒にシェリル・クロウのカバー・バンドをやる事になった。
人生なんて、どこでどう転がるか判ったものじゃない。
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20代の頃、推理小説が好きで結構読んでいた。元々、本は好きだったし、趣味は何かと訊かれた時に「読書かなぁ」という程度ではあった。好きだった作家は島田荘司本格ミステリの巨匠だ。
彼は破天荒な物理トリックを用いるのが得意な作家だ。彼の最も有名な死体トリックは、後に「金田一少年の事件簿」でパクられたらしい。
彼の処女作(商業作家としてのデビュー作という意味でなく、島田氏が最初に書いた小説)が「異邦の騎士」というミステリだった。これは主人公が目覚めると記憶を失っており、そこから事件に巻き込まれていくという話。
そして主人公は自分の過去の記憶を取り戻そうと、街の占い師を訪ね、占い師と友人になる。その占い師はビートルズとチックコリアのファンという設定がなされていた。
占い師は主人公にReturn To Forever(チック・コリアが組んでいたジャズ・ロックバンド)のアルバムを聴かせる。このアルバムタイトルが「浪漫の騎士」だ。
小説のタイトルが「異邦の騎士」なのは、ここから取られている。

それまで俺はチック・コリアなんて知らなかった。当時20代半ばでまだジャズを聴いていなかったし。ただ、島田荘司が作中人物に熱く語らせているようなので、これはきっと島田さん自身の好みでもあるのだろう。
俺は小説を読み終えると、Return To Foreverの「浪漫の騎士」を購入した。正直言って、Return To Foreverがどんな音楽なのかも一切知らなかった。小説の中で登場人物が気に入っているという設定だけなのに、俺はReturn To Foreverのアルバムを買おうと決めていた。
Return To Foreverは美しいピアノのメロディ、圧倒的なテクニックで聴かせるギター、強力なリズムセクション、いわゆる王道のジャズでもなければ、ロックでもない、摩訶不思議なジャンルの音楽だった。現代だとフュージョンに分類されるのかな。
一言でいえば、最高に格好良いに尽きる。

それから俺はReturn To Foreverのアルバムを買い集めた。チック・コリアのソロアルバムも買った。ただ、個人的にはチック・コリアのソロよりもReturn To Foreverのアルバムのほうが好きなものが多かった。
だから俺はチック・コリアのファンというよりも、Return To Foreverのファンと言うほうが正解なんだと思う。

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そして、そのReturn To Foreverという最高のバンドを産み出したチック・コリアが亡くなった。人はいつか死ぬ。それだけは金持ちも貧乏人も美人も不細工も関係ない。
唯一、人に平等に与えられた権利であり、義務だ。
また、憧れのミュージシャンが一人逝ってしまった。こればかりは、どうにも仕様がないのだけれど。

お気に入りの作家の小説を読んだ事で、俺は新しく、お気に入りのミュージシャンと出逢う事が出来た。島田荘司さんの「異邦の騎士」を読んでいなければ、Return To Foreverの「浪漫の騎士」を聴く事はなかっただろう。全ては繋がっている。

一冊の推理小説が一人のジャズミュージシャンを導いたのだ。世の中、何がどうリンクしていくかなんて答えはない。だから、どんなにささいな事でも大事にしたほうがいい。そのささやかな物が貴方をどこに連れて行ってくれるか、それは誰にも判らないのだから。