気付けば10月となった。もうすぐだ。もうすぐ、この狭い、汚いワンルームアパートともお別れだ。
ここに越してきたのが、去年の6月。そこから久しぶりの一人暮らし。仕事は地獄の有様で、心身ともに荒んだ。零時近くまで残業するのが当たり前となり、夜中の一時半くらいまで残った事も一度や二度じゃない。
帰り道、コンビニに寄ってハイボールを買い、それを飲みながら帰宅するのが唯一の心の慰めだった。
三年振りの東京は可もなく不可もなくといったところだった。去年の夏は相変わらず暑かった。札幌の涼しい夏が懐かしかった。そして、碌に自炊する事もなく、コンビニの飯ばかり喰い、酒を飲んでいた。週末はやる事もなく、朝から酒を飲むだけ。
相方と離れて暮らしていたから、ある意味無法地帯。全く良くない。
俺は東京での一人暮らしで地獄を見ていたが、札幌に残った相方はどうだったのだろうか? その辺りの話をした訳じゃないから、正直なところは判らない。
ただ、何度も書いているが、相方は東京生まれの東京育ち。三年前、札幌に行くまで東京以外の地に住んだ事がなかった人間だ。辛くないといったら、それはきっと嘘になるだろう。
俺なんか、群馬で生まれ育ち、埼玉に引っ越して、その後はサイパン、山梨、東京、アメリカ、また東京、そして札幌。どこで住もうが平気だ。次は沖縄が良いかな?
去年の6月、俺が東京に戻る事が決まった時、相方はどうしても仕事の関係で札幌を離れる事が出来なかった。
相方は言った。
「ま、長い結婚生活、きっとこういう事もあるよ。良い経験になるんじゃないかなー」
果たして、離れ離れの日々がそれぞれにどういった影響を与えたのかは判らない。今後どういう作用を及ぼすのかも不明だ。
ただ、一年四カ月、過ぎてみればあっという間だった。コロナのせいで在宅ワークになったせいか、4月以降がある意味空白期間だったのも否めない。
来週末、相方が札幌から東京に戻ってくる。厳密には神奈川県に移住だ。
そして、再来週に俺が東京から神奈川に移動する。
残された一人暮らしの期間は三週間を切った。きっともう、一人暮らしはこれが最後だろう。次に俺が一人暮らしをする時は、俺が相方に見捨てられた時か、相方が俺より先に逝ってしまう場合だけだ。
もしかしたら、この数週間を楽しむのも良いのかもしれない、そう捉えれば、この狭い部屋での暮らしも、悪いものじゃないように思えるかもしれない、いや無理だ(反語)。
19歳で実家を出てから、数多くの賃貸物件で暮らしてきたが、ここまで何も良い想い出がなかった部屋も過去にない。そう思えば、ある意味貴重なのかもしれない。