Some Were Born To Sing The Blues

Saxとジャズ、ピアノとブルース、ドラムとロックが好きなオッサンの日々の呟き

キャバ嬢を馬鹿にするな!

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今のプロジェクトで一緒に仕事をしているAさんという女性がいる。彼女に対して含むものは何もない。ただ、彼女の風貌が、俺が昔いた会社の先輩によく似ている。その先輩はユキさんと言った。Aさんを見ていたら、ユキ先輩のことを思い出した。

俺が20代の頃働いていた会社に、ユキ先輩がいた。彼女は所謂気が強い、気性が荒いと評されるタイプの女性だった。年齢は俺より5歳くらい上だったろうか。
俺が入社して間もない頃、女性上司から「ユキちゃんて怖いから、気を付けてね。女王様だから」と注意を受けた。零細企業で女王様というニックネームを得るとはどんな女性なんだ。

入社して暫くは、ユキ先輩と別の現場で働いていたので、彼女と会話をする機会がなかった。彼女がどんな人なのかは、さっぱり判らなかった。
俺より半年くらい前に入社していた山ちゃん(俺の2歳上)は、既にユキ先輩と一緒に働いた経験があった。山ちゃんはユキ先輩のことが大嫌いだった。
「現場でさ、他の会社の人がいる前で罵倒されたんだぜ。こんな事も判らないのって。しょうがないじゃん、知らないんだから。ひでーよな」
酒の席でユキ先輩のことが話題になる度に山ちゃんは愚痴った。ユキ先輩に怒られたことが相当ショックだったのだろう。山ちゃんの話を聞く限り、確かにユキ先輩は思慮が足りない。経験の浅い山ちゃんに対して、自分が判っているからと言って、人前で説教するのはどうかと思う。だが、後にユキ先輩を知った俺は腑に落ちた。ああ、この人はそんな相手の気持ちを斟酌出来るようなタイプの人ではないのだ、と。

ユキ先輩の見た目は間違いなく美人だった。雰囲気としては木下優樹菜さんに似たルックス。俺も初めて彼女を見た時に「へぇー、美人だな」という印象を持ったことを否定しない。しかし、既に山ちゃんの愚痴を散々聞かされていたから、ちょっと身構える部分もあった。また、彼女は言葉遣いが非常に汚くて、その時点で俺は彼女に対してポジティブな部分で意識をすることはなかった。

俺が入社してから1年後くらいに、ユキ先輩と同じ現場で仕事をした。別チームで仕事をしていたおかげで、ユキ先輩の叱責を俺が受けることはなかった。
また、これは理解して貰える人が多いと思うが、人間同士の相性で、よく怒られる人と同じミスをしても怒られない人がいる。山ちゃんはユキ先輩に怒られやすいタイプの人だった。ユキ先輩と山ちゃんの相性がそうだったのだ。女王様と奴隷の関係とでも言おうか。

※俺の仕事はシステムエンジニア(コンピュータ技術者)である。
酒の席で、山ちゃんはまた愚痴っていた。
「ユキ先輩の前職って知ってる? キャバ嬢だぜ、キャバ嬢」
専務がよく飲みに行くキャバクラで働いていたのがユキ先輩だと言う。専務が「プログラマーにならないか」とスカウトしてきたらしい。俺は専務もユキ先輩もなかなかの剛腕だなと感心した。
自分の馴染みのキャバ嬢をコンピュータ技術者にしようという発想が浮かぶこと自体が賞賛に値する。普通はそんなこと考えもしないだろう。「このキャバ嬢をうちの会社に入れて、一人前のプログラマーにしよう」と専務が考えたということは、ユキ先輩の中にその資質を見出したということだ。そしてユキ先輩も「キャバ嬢を廃業してプログラマーになろう」と思ったのだから、その判断も見事である。

ユキ先輩の普段の言動を見る限りでは、彼女が歳を喰ってもキャバ嬢でやっていけたとは思えない。若い頃ならそのルックスで客を呼べたかもしれない。ただ歳を取って外見が衰えた時に、それをカバー出来るだけの内面の美しさが彼女にはなかった。彼女の日常の振る舞いはそれは酷いものだった。俺は被害がなかったから、対岸の火事を決め込んでいられたけれども。
勿論、プログラマーだからといって技術力だけで喰っていけるものではない。きちんと人とコミュニケーションを取って、人間関係を円滑に進めるスキルは必要だ。元キャバ嬢であったということは、そういった対人能力は高かったのだろう。但し、その対人関係が身内(山ちゃんとかね)に向かうと攻撃的になるのは、彼女の基本的な資質によるものだろう、多分。

端から見る限り、ユキ先輩は仕事が出来た。それに俺は同じチームでなかったから、彼女からの攻撃を貰うこともなかったので、余計にそう感じた。だが、同じチームで攻撃を一身に受けていた山ちゃんは鬱積が溜まっていたらしい。
「キャバ嬢のくせに…」
酒の席で何度か彼はそういった意味の発言をした。そのニュアンスにユキ先輩の前職を疎んじているものが感じられた。今彼女はきちんと仕事をしている。それであれば、前職が何であろうと関係ない、そう考えるものじゃないのか。少なくとも俺はそう思ったから、山ちゃんのその考えには与しなかった。そもそも前職で言えば、俺だってこの業界に入る前は住み込みのパチンコ屋の店員だった。どちらもコンピュータとは無縁の職業である。

山ちゃんがユキ先輩からある意味馬鹿にされ、ことごとく叱責されたのも、山ちゃんの態度から「元キャバ嬢のくせに」といった空気を彼女が読み取ったからじゃないだろうか。あくまでも俺の推論だから、真実は闇の中だ。
俺は職業に貴賤はないと思っているし、犯罪に係わらない限り、どんな仕事でも良いという考えだ。それに反して山ちゃんは、水商売系の女性を一段低く見ているのがありありと判った。
プログラマーやシステムエンジニアなんて大した仕事の訳ねーだろ、俺が30年もやれてるんだぞ(笑)

その後、ユキ先輩は現場で知り合った、彼女にべた惚れしたプロジェクトマネージャー(偉い人)と結婚した。今は子供もいて、浦安(東京ディズニーランドがあるところ)で分譲マンション暮らしだ。
良かったね。
その後、山ちゃんはキャバクラに恒常的に通うようになり、月に8万もキャバクラにつぎ込む人になった。自分よりも20歳も若いキャバ嬢に入れあげて、給料を前借りするようになった。
馬鹿だね。