Some Were Born To Sing The Blues

Saxとジャズ、ピアノとブルース、ドラムとロックが好きなオッサンの日々の呟き

二人の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めてバッグを買うようになったか

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相方が先日東京にやってきた。主目的は仕事の出張だ。相方は医療系コンサル会社に勤めている。週末や休日には、そういった医療関係のお偉いさんを講師としたセミナーやら勉強会が発生するので、それに駆り出されるのだ。

ただ、今回はその四日間の出張のうち、昨日は丸々一日休みに充てて貰っていた。俺と一緒に神奈川に出掛けて新居の下見をする為だ。
予定通りに行けば、相方は10月に札幌から東京に戻る。そして、俺は10月一杯で今住んでいるワンルームアパートを引き払う。10月からは再び二人で神奈川で暮らすのである(相方が職場に通い易い為、俺達は東京でなく神奈川に住もうと決めたのだ)。

ただ、まだ実際に部屋の下見をするにはタイミングが早い。今部屋を見ても契約出来ない。だから住む予定の町を実際に歩いてみて、雰囲気や部屋の値段の相場を確認しようというのが狙い。
「だって、神奈川なんて住んだ事ないんだよ。実際に行ってみて雰囲気確認しないとさー」相方は言う。尤もな意見だ。
「俺も神奈川なんて住んだ事ないから判らん」そう返した。

アクセスが良いのがターミナルであるA駅、そしてそのA駅に乗換一回で行けるB駅。この二つの駅に近いところを借りよう。それが俺達の最初の計画。
一昨日、相方は既に都内のホテルにチェックインしていた。相方から連絡が来る。「明日さ、どこで待ち合わせしようか?」俺の住んでいる町、相方の滞在しているホテルの場所。それらを考慮して、直接A駅で待ち合わせよう、そう決めた。
昨日、A駅の改札前でお昼に相方と待ち合わせた。相方と会うのは4月以来。約三ヶ月振りか。というかこの一年、相方とはほぼ三ヶ月に一回のペースでしか会っていない。狙ってそうなっているのではなく、互いの都合とかで仕方ない。

A駅の改札前でスマホをいじっていると、相方が「やあ」と声を掛けて来た。三ヶ月振りの再会。だからと言って格別何か思う訳でもなく。いい歳した大人の男女だ。既に一緒になって12年が経っている。感慨に耽るような歳でも間柄でもない。
歩き出しながら「とりあえず町の雰囲気を確認しようか」と話し合う。A駅はターミナルだけあって、商業施設も多いし、栄えている。だが、それは逆算的に言えば、家賃が高くなるという事を意味している。
駅前の不動産屋の前に張り出してある賃貸情報を見る。「高いねー」「これじゃ無理だな」俺達の想定予算を遥かに超えている。こんな部屋に暮らしていたら、三ヶ月で破産する。

試しにということで、目についた不動産屋に飛び込みで入り、営業マンに値段の相場等を教えて貰う。30分程、話を聴いて俺達は不動産屋を後にした。
「これはA駅は無理だな。ここでは俺達の予算じゃ部屋は借りられないな」俺が言うと、相方は頷いた。
「じゃ、B駅行ってみようよ」相方が言う。俺達のターゲットはB駅に絞られた。
B駅を降りると、A駅よりは明らかにこじんまりはしているが、駅前に色々店やスーパーもあるし、暮らし易そうな雰囲気。

テレビCMをやっているような有名な不動産屋があったので、またまた飛び込みで入る。すると、場末のスナックのママのような雰囲気の、ボサボサのパーマが取れかかったような茶髪長髪の女性(50代半ばくらい?)が接客してくれた。それにしても巨乳(それはどうでもいい)で、ワイシャツの第二ボタンまで外して、胸の谷間を強調している。
ここ、不動産屋かな、それともスナックかな? 俺はそんなことを考えた。スナックのママから情報を得る。実はB駅に来るまで知らなかったのだが、B駅は快速が止まる駅なのだ。なるほど、B駅の物件はそれなりに良いものが多かったが、これもちょっと予算を考えると微妙に厳しい。
絶対に無理じゃないけど、この予算にすると、月々厳しくなるなぁと。この辺りが難しい。

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相方とドトールに入って、スナックのママ(じゃないよ!)から貰った物件情報を見る。
「ねえねえ、隣のC駅の物件も結構あるね」
C駅はB駅から一駅だ。但し、C駅は快速が止まらない。各駅停車のみだ。でも、せっかく来たのだからとC駅まで行ってみる。と、C駅はB駅よりもさらに駅前がこじんまりとしている。
駅前の不動産屋の情報を見ると、明らかにB駅よりもランクが良い(部屋が広い、駅から近い、家賃が安い)。
「なるほどなー。交通の利便性を取るか、部屋のランクを取るか、だなー」俺が言うと、相方も頷いた。俺達の中で、C駅で部屋を探そうというコンセンサスが出来上がっていた。

とりあえず町の雰囲気は掴めたし、多分C駅で部屋を探す事になるのだろう。今日俺達に出来る事はここまでだ。これ以上はもう少し時間が経ってからやればいい。

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「そういや、バッグ欲しいって言ってたろ。何処で買えるの?」
「買ってくれんの?」相方が目を輝かせて言う。「じゃあ、銀座に行こう」
俺達はC駅に戻り、銀座を目指した。相方がスマホでお目当てのバッグを見せる「これで4万円だって!」
「お前、給付金のうち、7万でパソコン買ったって言ったろ。なんで予算オーバーしてんだよ」

銀座に行って、そのなんちゃらというブランドの本店に行く。相方がスマホで見せてくれた奴はどうも実物を見たら気に喰わなかったらしい。別の奴が良いなーと言い出した。
「これ、すっごく可愛いねー」俺には、どうしてそのバッグが可愛いと思えるのか理解出来ない。だが、俺がギターショップに行って「このレスポール、色がいいなあ」と言っても相方は理解出来ないだろう。それと一緒だ。
「これ、おいくらですか?」と相方が店員に尋ねる。店員が言った値段は税込みで約片手分の値段。たけー。こんな舐めたバッグで安いギター一本買えるじゃん。
すると今度は店員がそのバッグにチャーム(っていうの?バッグに付ける飾り)まで出してきた。相方はそれをつけて、肩にしょって鏡を見ている。女性ってバッグを持った時の自分の姿を確認するんだね。いやはや、ビックリだ。

「これ、可愛いなー。欲しいなー」相方が俺を上目遣いで見て来る。かなり予算オーバーだが、しょうがねえな。バッグ買ってやるって言ったしなあ。
俺は店員に「すいません。このチャームっていくらですか?」(俺は3千円くらいかと思っていた)と訊く。
「1万4千円になります」(これを言われた瞬間、俺の中の経済常識がゲシュタルト崩壊した)

「ああ、毒を喰らわば皿までだ。じゃ、これお願いします」俺がそう言うと、店員は笑っていた。
相方はバッグを手に入れてご満悦だ。

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腹も減ったので飯を喰いに行く。相方は前日から突貫出張なので体調があまり良くないから、うどんで良いと言う。銀座の東急プラザにつるとんたんといううどん屋があるとのことで、そこで食事。

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うどん屋さんはビルの10階。運良く窓際の席に通されたので景色が良い。
この東急プラザは切子細工をイメージして建物を設計したのだという。無駄にお洒落なビルだよな。

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相方は体調が今一つとの事なので、ホテルまで送る。ホテル近くのスタバでお茶をして、本当にどうでもいい雑談(一緒に暮らしていた頃に日々していたような話)をした。
生産性のある話をした訳でもなく、ただダラダラとお喋りをしただけ。勿論、今後の引越のプランの話とかもしたけれども。コロナで海外旅行は当分行けそうもないから、長崎にでも行こうか、とか(グラバー邸やハウステンボス、夜景観たいねとかのどうでもいい話など)。
でも、そういったどうでもいいような時間がきっと今の俺達には貴重なんだと思う。