Some Were Born To Sing The Blues

Saxとジャズ、ピアノとブルース、ドラムとロックが好きなオッサンの日々の呟き

Winter,Again

f:id:somewereborntosingtheblues:20181208211949j:plain

札幌も、12月を迎えた。三度の冬。今年は例年よりも雪の出足が遅い。無論、もう何度か雪は降っている。だが、積もるまでには至っていない。
昨日の夜から雪が降り始め、今週末は猛吹雪の天気予報。この週末の雪が積もり、来年の三月末まで根雪となるのだろう。

毎年冬が来る度に、札幌初日の事を思い出す。2016年12月(厳密には11月末)。
羽田空港で相方に見送られ、新千歳空港まで飛行機。そしてJRで札幌駅へ。
札幌駅から地下鉄に乗り換え、不動産屋へと向かう。新居のマンションの鍵を貰う為だ。札幌の地下鉄に乗ったのは、この日が二回目。一回目は、10月に部屋の下見に来た時だ。だから地下鉄の駅名に馴染みがなく、何度も案内板を確認した。

不動産屋のある駅で降り、地下鉄の出口から地上に登った瞬間。目を疑った。吹雪いていた。
まだ、11月だぜ…それなのに吹雪。あのショックは今でも忘れられない。鍵を貰い、自分が住む街の駅に降り立った。当然そこも吹雪。というか、先程よりも断然強い吹雪だった。随分後になってから、自分の住む街が札幌市内でも、結構な田舎のエリアで雪も多い場所である事を知る。

駅からマンション(当然、賃貸だ)まで徒歩で7分程度。しかし、迷った。何しろ下見の時に一度来たきり。それも不動産屋の車に乗ってだ。徒歩で行くのは初めて。素直に車で行った時のルートを使えば迷う事もなかったのだが、徒歩で行ける裏道を使おうと助平心を出したのが失敗だった。
吹雪の中、彷徨った15分。札幌生活が丸二年になるが、この15分がこの二年間で一番辛かったといっても過言ではない。

無事部屋に辿り着いたが、部屋の中も侘しかった。引越荷物が届くのは翌日。部屋の中にあるのは、俺の持ってきた大きめのリュックサック一つだけ(この夜用の着替えと、大家への挨拶の土産のお菓子くらいしか入っていない)。
そして、さらに辛かったのが、暖房が使えなかったことだ。この日の夕方にガス会社の人が来る事になっていた。この部屋の暖房はガス給湯を利用したものなので、ガスが使えないと暖房もつかない。
時刻は午後三時くらい。ガス会社の人が来るのは、午後五時の予定だった。俺が住居近辺の地理に詳しければ、五時近くまでどこかで時間を潰したことだろう。
だが、初めての土地。どこにどんな店があるのかも判らない。また、迂闊に出掛けて吹雪の中、迷うのも嫌だった。

暖房のない、がらんとした何もない部屋で、俺はダウンコートを着て、フローリングの床に座り込んで、スマホでネットをした。他にやる事がなかったからだ。
本でも持ってくれば良かったと思ったが、後の祭りだ。

「そうだ、時間が余ってるし、大家に挨拶しとくか」大家はマンションの隣に住んでいる。菓子折りを持って挨拶に行くと、でかい屋敷のドアが開かれた。その時、家の中の暖気が外に流れ出してきた。寒さに耐えていた俺からすると、その暖かさが非常に辛かった。
「こんなに暖房強くしてんのかよ。俺なんか部屋に戻れば暖房も何もないのに…」そういった絶望感だ。

夜になり、無事にガスは開栓され、暖房はついた。あの時ほど、暖かさというものが大事だと痛感した時はない。
引越は翌日と書いたが、布団はその日に届くことになっていた。新しい布団を購入したので、それが販売店から直接届く。
だが、何時になっても布団が来ない(時間指定は確か、19時から21時だったろうか?)
売店に電話をすると、担当者が帰宅したので、ちょっと判らないと電話口の女性に済まなさそうに謝られる。

ま、仕方ない。布団がない事くらい、たいした話じゃない。ホテルなり、サウナで一晩過ごせば済む話だ。
スマホで宿泊所を検索すると、すすきのに宿泊可能な健康ランドがある事が判る。札幌初日に、すすきので夜を明かすのか、それも悪くないなと思う。

東京にいる相方に、布団が手違いで来ないから、すすきので宿泊すると告げる。この時、相方はまだ東京の仕事を続けていた。彼女が札幌に来るのは翌年の四月の予定だ。

すすきの駅で降りると、札幌一の歓楽街らしくネオンが賑々しい。それでも、東京で言えば錦糸町くらいの感じだ。そう考えると、いかに東京がクレイジータウンかという事が判る。
すすきの駅前に交番があったので、健康ランドの場所を尋ねる。教えて貰った通りに歩いていると、ガールズバーの客引きに遭った。
上はダウンコートを着ているのだが、下は超ミニスカートだった。
「こんなに寒いのにミニスカートなのか…」と驚愕したが、今これを書きながら気づいた。ミニスカートは店内のユニフォームなんだよな。吹雪の中でミニスカートは寒々しいけど、あれは本来店内用だと思えば、不思議な事ではない。
それに、ミニスカートじゃないと、男性客を惹きつけるインパクトに欠けるだろう。

健康ランドに行くまでに二回、ミニスカートの女の子に客引きされた。俺は正直、若い女の子のいる店(ガールズバーとかキャバクラ)に興味がない。これは若い頃からだ。
どうせ札幌初日の夜に飲み屋に行くなら、そういった店よりも焼き鳥屋のほうが良かった。だが、勿論焼き鳥屋も判らないし、特に空腹でもなかった。
酒なら、健康ランドの中でも飲めるし。

健康ランドの中の風呂に長々と入り、食堂でチューハイを何杯か飲んで、俺の札幌初日は終わった。
翌日、朝の9時くらいに健康ランドを出てすすきのの街を歩くと、ゴミ袋だらけで、カラス達がそれを漁っていた。目の前でこれだけのカラスを見るのは実に久しぶりだ。
札幌は、東京と比較にならないくらいカラスが多い。あれは何故なんだろうか。

f:id:somewereborntosingtheblues:20181208212100j:plain

あの日から、既に二年が過ぎた。
特に何か思ってこの二年、過ごしてきた訳じゃない。

仕事は特に可もなく不可もなくで遣り過ごしている。出世欲も金銭欲もなく、仕事で何か成し遂げようとも思っていない。そもそも、もう既にそんな歳はとっくに過ぎた。
仕事人としては、まだやれる事があるだろうけれども、貪欲にそれを追求する気もない。

札幌に来てから始めたピアノは一向に上達しない。弾ける曲は「Yesterday」だけだ。他の習った曲は忘れてしまった。それに俺がピアノで目指してるのは、譜面を見ながら、曲を弾くことじゃない(というか、俺は譜面見ながらピアノが弾けないんだが)。
今は、一生懸命ブルーノートスケールを覚えている最中。やっと、FとGが何とか弾けるようになった(それでも、三回に二回は間違える程度の酷さ)。

ギターとドラムではバンドを組めてライブもやれたし、文句はない。サックスは定期的に参加出来るロック系セッションとジャズ系セッションの場を見つけたので、これも充分だ。

今後、仕事やプライベートで何をやるかなんて決まっていないし、これといった目標もない。
良くも悪くも流されて、残り少ない人生を生きていくだけだ。

いつまで札幌で暮らすかも判らない。老人になったら(既に老人だろ!という突っ込みは却下)南国で暮らしているかもしれない。

それでもやはり、俺は冬が来る度に、あの札幌初日の吹雪の事を思い出すのだろう。