Some Were Born To Sing The Blues

Saxとジャズ、ピアノとブルース、ドラムとロックが好きなオッサンの日々の呟き

札幌へ行った、友と再会した、そしてSaxを演奏した。(前編)

7月22日から25日まで札幌に出掛けてきた。何度か書いているが、札幌時代の友人から「ライブやるから札幌に来い。そして一緒に演奏しよう」と言われたのだ。
札幌で暮らしていたのは2016年の12月から2019年の5月まで。約2年半の短い期間だった。だが、気心の知れた友人が出来、複数のバンドで複数の楽器を演奏することも出来た。短い期間ではあったが、充実していた日々だったと思う。

友人から連絡があったのは6月の中旬。ライブまで約1ヶ月。その期間で5曲覚えてSaxを吹かねばならない。この1ヶ月間は、ドラム担当のブルースバンドも、旧友とやっているアコースティックギターデュオも放置した。ブルースバンドは練習があったし、新曲もあったのだが、だいぶ誤魔化してしまった。致し方ない。過去に1ヶ月間で5曲覚えて演奏出来るようにするなんて、やったことがないのだ。
正直かなり苦しかったが、それはそれで楽しかった。人間、集中すればそれなりに成果を上げることが出来るのだということも学んだ。ただ、もう2度とこんな短期間でこれだけの曲の習得はやりたくない。さすがに余裕がなさ過ぎる。

札幌の友人(俺は彼を「師匠」と呼んでいる)が、札幌に行く週の水曜日に言った。
「そういえばさ、アンコール貰う可能性もあるじゃん。だから、キル・ビルのテーマ曲もやるから覚えてきてよ」
「師匠、今日何曜日だと思ってんの? 水曜だよ。俺、明後日の夜は札幌に行くんだぜ」
俺は苦笑しながら返した。さすがにもうこの曲は無理だ。捨てるしかない。札幌時代、この曲はバンドでやった。ライブで演奏もした。だが、その時のパートはギターである。今回俺はテナーSaxを吹くのである。ま、吹けそうな箇所だけ当日吹けばいいや、そんな緩さも許されるのが、このバンドの良い点である。

金曜日、午後は早退した。もう仕事をやる気分ではなくなっている。俺の心は既に札幌だ。早々に帰宅し、Saxと荷物を確認する。着替えや小物はどうでもいい。いざとなれば札幌で買える。最低限、テナーSaxとスマホさえ持っていけば、俺は札幌に行って演奏出来る。
羽田空港出発が20時半。ということは19時半くらいに羽田に着けば充分である。だが、家にいてもやることがないし、気持ちは完全に札幌に向いている。18時過ぎくらいには羽田空港に着いてしまう。こんなに早く空港に行って何するんだよ?
酒飲むんだよ。というか、酒を飲んでLINEで知り合いやバンドメンバーにメッセージを送るくらいしかやることがないのだ。
売店でビールを買い込み、待合スペースでビールを飲む。気分が高揚しているので酒が美味い。今日から東京に戻る月曜までいくら酒を飲んでも許される。鬼の居ぬ間に洗濯とはこのことだ。
搭乗まで時間があり過ぎた。調子に乗ってビールを飲みまくっていたら、飛行機に乗る頃は既に出来上がっていた。ただのSaxを持った酔っ払いおじさんである。
機内の荷物収納ボックスにSaxを仕舞っていたら、キャビンアテンダントさんから「何の楽器ですか?」と尋ねられる。「テナーSaxです!」無駄に偉そうに答える。なんか、ミュージシャンみたいだな、俺。

22時過ぎに新千歳空港に到着。おっと、なんか涼しい。何しろ灼熱地獄の東京から札幌だ。温度差が激しい。Tシャツ1枚だとちょっと涼しいくらい。そしてこの涼しさがまた懐かしい。そうだよな、7月でも札幌はこんな感じの過ごし易さなんだよなあ。
今回の旅はススキノのホテルに3泊する。晩飯を食べていないので、ススキノのガールズバーにでも行って、女の子の太股でも観ながら酒でも飲もうか。そう思ったが、ホテルに着いた頃はもはやダウン状態だった。羽田空港で酒を飲み過ぎた。
ホテルの横に併設されたコンビニでカップラーメンとサッポロクラシックラガーを買い込んで部屋に戻る。って、まだ飲むのか。
札幌初日の晩飯がカップラーメンとは、いくらなんでも貧し過ぎる。ホテルからちょっと歩けばススキノの歓楽街があるのだ。だが、もう出歩く気力、体力がない。歳は喰いたくないものだな。
ビールを適当に飲んでいるうちに寝落ちした。

翌日土曜日。
朝の8時過ぎくらいに目が覚める。前日飲み過ぎた割には、比較的元気だ。不思議なのだが、同じくらいの量を飲んでも翌日見事に酒が残る場合と、スッキリしている場合がある。酒の酔い方というのは、かなりその時の気の持ちようが影響すると思う。
何しろ今日は、午後に最後のリハーサルがあるのだ。俺にしてみれば、バンドメンバーと合わせる最初で最後の機会。また、約3年振りにこのバンドで演奏するという楽しみもある。もちろん、ゴールは明日の日曜のライブだけれども、この前日最終リハも俺にとっては楽しみの一つでもある。
8時に起きたのは良いが、やることがない。リハ前に何処かに出掛けるにしても時間が中途半端だ。となると、やることは1つだ。テレビを見ながら、昨日の夜買い込んだビールを飲む。朝からホテルで煙草をくゆらせながら飲むビール。最高だな。
あまり飲み過ぎて、リハでSaxが吹けなくなっても困る。そこは自制した。12時近くになったのでホテルを後にする。
昼飯どうしようかなあと考えながら歩いていると、ススキノの馴染みある風景が。音楽スタジオがそこにはある。ああ、札幌時代はこの音楽スタジオでよく練習したなぁ、懐かしくなる。
札幌時代に何度か食事をしたことのある蕎麦屋に入り、天ざるを注文。久しぶりの札幌で食すのが蕎麦かよ、そういった気持ちもあるが、あえてそこで食い物に拘らないのが俺らしいとも言える。
天婦羅か、迷うこともなく瓶ビールも注文。今からバンドの練習あるんだけれど。
天ざるにビール、最強の組み合わせだ。本当は天婦羅には日本酒をいきたいところではある。だが、さすがに日本酒を飲んだら、Saxが吹けなくなる。というか、俺本当に札幌に来てるのか? やってることが東京と変わらんぞ。
食事を終え、JRでスタジオまで行こうと思ったが、時間が間に合いそうもなくなった。ここは致し方無い。流しのタクシーを捕まえる。
タクシーでスタジオに乗り付けるなんて、なんかミュージシャンみたいだな、俺。

スタジオの待合スペースで「ベースマガジン」を読んでいたら、バンドのベーシストT君がやってきた。
「お久しぶりですー」
T君とは3年前まで一緒に演奏した仲である。イケメンの好青年だ。T君が、後ろに立っているギターケースを抱えた若者を俺に紹介する。
「ギターのAさんです」
「おお、初めましてー。よろしくですー」
俺とA君、互いに挨拶。このバンドの初代ギタリストが俺で、2代目ギタリストがA君ということになる。俺がバンドを離れてからA君が加入したので、俺とA君は面識がなかった。
さらにその後ろに見知った顔がある。ドラムのOさんだ。Oさんとも3年前まで一緒にやっていた。旧知の仲である。俺とOさんは同い年だ。
3年振りの挨拶をして、世間話をしているうちにスタジオに入る時間になる。バンドの紅一点、キーボード担当のHちゃんは遅れてくると言う。

スタジオに入り、俺はドラムのOさんに告白する。
「いや、実はさ。さっきビール飲んで来ちゃったんだ…」
「駄目な男だなー、君は。ま、しょうがないね」
そうは言うが、Oさんだって、3年前の俺のラストライブの時は、昼間に酒を飲んでいたのだ。どいつもこいつもそんな奴ばかりである。
何曲か合わせているうちに、キーボードのHちゃん登場。彼女とも俺は初対面だ。俺が札幌を離れて、暫くしてから彼女はバンドに加入したのだ。
ギター、ベース、ドラム、キーボード、そこに俺のテナーSax。明日の本番はこの編成にさらにトロンボーンとテナーSaxが加わる。ホーンセクションが3人いるアマチュアバンドというのもなかなか豪勢だと思う。

今まで1ヶ月間、カラオケボックスでひたすらCDに合わせて吹いていた。だが、当然の話だが参考音源と実際のバンドだとアレンジやノリ、テンポなどが違う。オリジナル音源と一緒なのは尺(曲の長さ)くらいである。
自分で言うのもなんだが、思った以上にしっくりと来た。なんというか、自然にバンドの中でSaxが吹けていた。まるでこのバンドで何年も一緒に演奏していたかのような感触。
ああ、これだなぁと思う。俺は嬉しくなった。Saxを吹いていて、違和感もないし、不安になったりすることもない。そう感じた大きな部分にドラム、ベース、ギター、キーボードの演奏がしっかりしていた事はまず言っておかねばならない。彼らの演奏にどっしりとした安定感があった。だから、俺のSaxが多少ぶれても、バンド全体の演奏が乱れることも崩れることもなかったのだ。そして手前味噌になるが、初めて彼らと一緒に演奏をしたが、良い感じで俺のSaxも嵌っていたと思う。ちなみに、リハで間違えた箇所は、やはり本番でも間違えた。そういうものである。

2時間の最終リハを終えて、俺はすっかり満足した。勿論、明日のライブが主目的であり、そのために遠く札幌まで来た俺ではある。だが、このリハの演奏で俺自身物凄く充足感を得てしまった。「もう明日出ないで、東京帰れ」そう仮に言われたとしても、俺は納得して帰京したことだろう。
時間は午後の4時を過ぎたところ。夜には友人である師匠が経営するバーに顔を出さねばならない。だが、まだ時間が早すぎる。一旦ホテルに帰ろう。車で来ているギターのA君に送って貰う。

さて、今日はもう俺がやる事は何もない。最終リハも終わった。Saxをどう吹けば良いかの手応えを得た。
後は明日の本番まで自由だ。となれば…そう酒を飲むのだ。
俺はホテルの部屋に戻り、適当に映画を流しながらビールを飲み始めた。リハも終わったのでチューハイも飲む。俺の姿を相方が見たら呆れたことだろう。
「せっかく数年振りに札幌まで行って、観光も何もしないで楽器演奏と酒? いつもと変わらないじゃない!」そう怒られても仕方ない。
だが、俺は観光をしに札幌に来たのではない。Saxを吹くために札幌に来たのだ!(あと、酒を飲むため)

気付くと寝落ちしていた。目が覚めると8時を回っている。お、いかん、いかん。師匠の店に行かなくては。相方が買ってくれた横浜土産を手に、俺は師匠の店に向かった。
2年振りに師匠との再会(2年前に、当時札幌にいた相方の手術のため、俺は札幌に来ていたのだ。それ以来である)。
「おー、久しぶりー」
師匠の店で飲むのも2年振りである。互いに挨拶を交わし、俺はカウンター席に座る。札幌にいた頃はこの店によく遊びに来たなあ。懐かしさしかない。
「何飲む?」
「明日ライブがなければ、テキーラいきたいところだけどねー。瓶ビール」
さすがに俺も明日本番を控えてテキーラを飲む勇気はない。テキーラなんか飲んでしまったら、明日演奏出来なくなることは必至だ。
友人との邂逅の良いところは、数年振りに会ってもすぐに前のような雰囲気に戻れるところだ。俺達は再会して10分もしないうちに、3年前のように馬鹿話に興じた。

「縁」という言葉がある。師匠と俺は同い年である。歳が一緒だから仲良くなれるというものでもない。俺達はSax教室で知り合った。でもそこで互いに何か「あ、こいつ面白いんじゃないか」というものがなければ、ただの知り合いで終わったことだろう。
色々な幸運が重なったというのも事実としてある。俺が住んでいたマンションが、師匠の店と自転車で10分足らずの距離だったのも幸運の1つだった。店の定休日に、店で2人一緒に楽器の練習をしたことが何度もある。俺がギターを担いで師匠の店に来て、2人で練習を繰り返した。
というのは嘘だ。練習やるから店に集合しようとなったが、大抵練習時間は30分程度で、2時間以上は2人で馬鹿話をしていた。でもその馬鹿話を何度もすることで、互いの人となりが判ったし、友好が深められた。
この日の夜も、3年前と何ら変わらない楽しい会話の遣り取りがあった。
ライブ前にして、俺は既にSax演奏、友人との時間という、大切なものをほぼ手に入れてしまった。

ホテルに戻ったのは零時前後だったが、寝たのは3時過ぎくらい。無論、ホテルに戻ってからもビールは飲んでいた。
明け方にこむら返りを起こして悶絶したことをここに記しておく。理由は明白。飲み過ぎである。この日はSaxを吹くこと以外は酒を飲むことしかやってないんだから。

さあ、明日(というか既に日付は変わっている)は待望のライブだ。(後半へ続く)