Some Were Born To Sing The Blues

Saxとジャズ、ピアノとブルース、ドラムとロックが好きなオッサンの日々の呟き

バンドの成田離婚

成田離婚」という言葉が流行ったのは随分昔な気がする。若い人はこの言葉の持つ意味を知らないだろう、きっと。
俺のBlogを見てくれるような人は、俺と同世代が多くて意味も判るだろうから、説明はしない(知りたい人はウィキペディアでも見て下さい)。

成田離婚」で俺が一番不思議なのは「結婚することを決めた相手と、結婚前(新婚旅行前)に旅行しなかったのだろうか」という事だ。或いは、週末に互いに泊まりあったりしなかったのか?
勿論、双方が実家暮らしで、相手の家に簡単に泊まれない状況もあるかもしれない。だが、旅行に行けば、二人だけで最低でも一晩は一緒に過ごす事が出来る。そうすれば、ある程度の事は判ったんじゃないだろうか。とは言うものの、一泊だけの旅行や、週末だけ一緒にいるのと、毎日暮らすのは全然別物なのは言うまでもない事だが。

バンドでもこの「成田離婚」的な事象は結構頻繁に起きる。ある意味、当たり前と言えば当たり前すぎる話。
今年の6月に東京に単身で戻ってきたが、仕事は地獄で週末はやる事がなく、地獄の日々だった(あ、今月から新しい現場に行かされているので、夏よりは気分が楽です)。
「サックス吹きてえなあ、ギター弾きたいなあ、ドラム叩きたい。ピアノ再開したい…」そんな悶々とした日々を過ごしていた。仕事が地獄だったから、余計にそう思った。ネットでチェッカーズセッションがサックス吹きを募集していたので応募したが、やはり「なんか違う」となってしまった。チェッカーズが悪い訳じゃない。自分の好きじゃないジャンルでサックスを吹こうと思うから、そういった事になるのだ。4曲程、久しぶりにサックスを吹けて楽しかったが、やはり違和感は拭えなかった。自業自得である。

そうしていたら、とあるバンドメンバー募集サイトからメッセージが来た(俺はそのサイトにはドラマーとして登録している)。俺と同い年のギター弾きの人。バンドの発起人なので「リーダー」としておく。リーダーから、「趣味が近いし、歳も一緒だから、お誘いしました。良かったら一緒にやりませんか」と。ドラムを叩けるチャンスだ。一も二もなく、俺はその誘いに乗った。

そして初リハーサル当日。スタジオの休憩所にリーダーが(リーダーが予め、容姿を伝えていてくれたのですぐに判った)。ベース、キーボードの人達もいる。二人とも俺と同世代のおっちゃんだ。俺を含めておっちゃん4人。そこへボーカルの美帆ちゃん(仮名)。美人で、女優の吉岡なんとかさんに似ている。この日は初顔合わせという事もあり、曲はジュディ&マリー、ビートルズの「yesterday」、レッド・ツェッペリンの「ロックン・ロール」。滅茶苦茶な選曲である。統一性も何もあったもんじゃない。
とりあえずやってみたが、「うーん」という感想しか出てこない(要するに出来は良くなかったという事だ)。だが、美帆ちゃんの声は素晴らしかった。良く出ていたし、音域も結構広い。アマチュアの女性ヴォーカルとしては、かなり良い部類に入るんじゃないだろうか。

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メンバー全員がこのメンツでバンドをやりたいという事で、「じゃあ曲を選ぼう」となった。ここからだいぶに流れが無茶苦茶になってきた。バンド用のグループLINEを作ったのだが、キーボードが一晩で平気で10曲とか候補を上げて来る。おまけにどれが一番やりたいとか書かないから、「やりたい候補が10曲」とかだ。この頃、俺は毎晩帰宅が深夜零時過ぎ。キーボードの上げた候補曲は無視していた(一晩で10曲も聴けるか!)。
ベースは一切希望をLINEに上げない。だから、何がやりたいのかさっぱり判らない。
リーダーは各メンバーの希望を集約するのに四苦八苦していた。ボーカルの美帆ちゃんはリーダーの意見には反応していた。多分、候補曲をのべつ幕無しにあげるキーボードに嫌気がさしていたんじゃないだろうか。俺はあらかじめ「仕事がテンパってるから、曲を聴いてる余裕がない。みんなで決めてくれ」と伝えていた。

なんとか次回リハーサルまでに6曲までに絞った。それにしても多過ぎである。バンドとしてある程度練習を重ねて、レパートリーが増えたのなら良い。だが、初回練習で6曲は多過ぎる。どの曲に比重を絞って良いか判らなかったし、散漫になる。案の定、このバンドの初回リハは惨憺たる有様だった。まともに曲として成立しているものが一つもなかった。バンド始めて3ヶ月の高校生のほうがマシなくらいだった。
リハが終わり、「軽く呑んで行こうか」とリーダーがメンバーに言うと、美帆ちゃんが「体調が悪いんで今日は帰ります」と。俺はこの時点で、ああ美帆ちゃんは、このバンドに嫌気が差したんだなと痛感した。そりゃそうだ。尺を無視して弾きまくるキーボード、自分が気の乗らない曲は殆ど弾かないベース、やる気はあるんだが、腕の伴わないドラム(俺だ)、そりゃ嫌になるわな。

居酒屋で、美帆ちゃん抜きでおっちゃん4人で酒を飲んだのだが、俺は驚いてしまった。キーボードはいきなり言う。
レッド・ツェッペリンのロックンロールやりたいんだよね、僕は」
いや、俺達が初めてスタジオ入りした時に、美帆ちゃんはその歌に乗れてなかったの、忘れてないよね。彼女、洋楽は得意じゃないって言ってたろ。すると、ベースが追従する。
ヴァン・ヘイレンとかやりたいなあ。そういう曲はどうかな。LINEにさ、そういう系統の曲、候補としてあげよう」
は? お前らは馬鹿なのか? 美帆ちゃんがボーカルである以上、そういったハードロックやヘヴィメタルがバンドの持ち歌に成り得る訳ないだろ。意味が判らない。しかも、美帆ちゃんがいない場で、ある意味欠席裁判的にそういった発言をする趣旨も判らない。
俺は苦々しい気分でビールを飲んでいた。俺の中では、ボーカルの美帆ちゃん、ギター担当のリーダーとは楽しくやれるんじゃないかと思っていたが、このキーボードとベースとは無理だな、という気がしていた。
俺は「このバンドは長くねえな(俺が所属している期間は大して長くならないな)」と痛感した。こういった感覚というのは、大きく外れる事はない。これこそがバンドの「成田離婚」である。初練習で、既に崩壊(解散?)。
そしてこの日の夜、キーボードとベースはグループLINEに自分達の趣味であるハードロックやヘヴィメタルの曲ばかりを何曲も上げた。当然、こんな歌を美帆ちゃんが歌える訳もなく、歌いたくなる訳もなく。

リーダーと美帆ちゃんとはバンドを続けて行きたかったが、こういったふざけた発言をするキーボード、ベースがいるバンドとは無理だ。俺はリーダーにいつ「辞めさせてくれ」と言おうか考えていた。
そんな時、リーダーから個別にメッセージが来た。
「キーボードと喧嘩しました。彼とはもう一緒にやれないです。ボクと一緒にやるか、キーボードと一緒にやるか好きな方を選んでください」
(無論、喧嘩に至った経緯も細かく書かれていた)
俺は返信した。
「俺はリーダーと美帆ちゃんと一緒にバンドやりたいから、今のバンドは終わりにしよう。そして、新しくベースとキーボード募集しましょう」
リーダーはその意見に乗ってくれた。美帆ちゃんにも個別に今までの経緯を伝え「リーダーと俺は美帆ちゃんと一緒にやりたいと思ってます。美帆ちゃんさえ良ければ、一緒にバンドやりましょう」とメッセージを送った。

美帆ちゃんはリーダーと俺と一緒にやると言ってくれた。そして新しいベースの人を探してスタジオに入った。驚いた事に初回練習から、良い感じで曲が演奏出来た。ヴォーカル、ギター、ドラムは変わっていないのに、だ。無論、新しいベースの人がとても上手いというものあるのだけれども。
ただそれ以上に、やはり感覚というか、ちゃんと互いに向き合っているなと感じる事が出来たのが大きかった。これは前のメンバーの時にはなかったものだ。

バンドメンバーの技量や力量が、バンドの演奏に大きく影響するのは間違いない。だが、それと同様にメンバーの気持ちの有りようもそれ以上に大事なんだよな。今回、バンドの離婚を経験して、俺はそれを知る事が出来た。