Some Were Born To Sing The Blues

Saxとジャズ、ピアノとブルース、ドラムとロックが好きなオッサンの日々の呟き

転がり続けるバンドの記録

最後にドラマーとしてライブをやったのは札幌時代だ。もう4年くらい経つ計算になる。2018年の秋くらいかな、ライブをやったのは。当時所属していたハードロックのカバーバンドで叩いたのが最後。ススキノのこじんまりとしたライブバーでお気に入りのバンドの曲を演奏した。
正直、俺のドラムは酷かったが、演奏そのものは楽しかった。

それから、札幌を離れ東京で単身赴任生活。東京でJ-POPのカバーバンドを結成したが、コロナのせいで活動休止に。休止している間にメンバーが脱退してバンドは自然消滅。このコロナで解散、消滅したバンドの数は相当になると思う。
コロナもやや沈静化してきたので、再度メンバー募集を掛けてバンドを再結成。今年の1月に新ベーシストが参加、4月に新ボーカル、5月に新キーボードとメンバーは順調に増えて行った。実際は順調ではなかったけれども。

4月から参加した新ボーカルは女性。バンドの発起人でありギターのK君が「女性ボーカルでやりたい」と言い出したからだ。なんでブルースをメインでやるバンドのボーカルを女性にするのか、そういった疑問は俺の中にはずっと燻ってはいた。だが俺はブルース原理主義者じゃない。「女にブルースが歌えるのかよ!」なんて時代錯誤なことは言わない。そもそもそれを言い出したら「日本人にブルースがやれんのか」というパラドックスにたどり着く。

正直言うと、この類の論争は意味がない。何しろブルースから一番遠いところにいる日本人が「ホワイトブルース(白人の演奏するブルース)なんか認めない。あんなのはブルースじゃない」などと力説するのだ。阿保じゃなかろうか。そんな事を言ったところで「イエロー(アジア人)がブルース聴いたって判らんだろ」と嘲笑されるだけである。
前にも「八代亜紀が唄う『FLY ME TO THE MOON』はジャズなのか」論争がFACEBOOKで起こっていた。これも馬鹿馬鹿しくて、お話にならない。
少なくとも日本人は「これはジャズ(ブルース)だ、これはジャズ(ブルース)とは認めない」などと口が裂けても言わないことだ。ご自身が赤っ恥をかくだけである。

さて話がそれた。女性ボーカルを迎えたのは良いのだが、その女性はいわゆる声楽をメインにやっていた人だ。ようするに「合唱団」である。俺はさすがにどうなんだろうと首を傾げざるを得なかった。これは単純に適正の問題である。
ブルースなんて、メロディはあってないようなものだ(暴論)。というよりも、ボーカルがいかようなりとも好きに毎回アレンジして貰って構わないジャンルの音楽である。
また、ギター、ベース、キーボード、ドラムにしても毎回細かいアレンジが変わる。気分で変わるのだ。下手すると、さっきはなかったキーボードソロが今度演奏すると、差し込まれたりする。それがブルースである。曲の構成が変わっても何とかなるのがブルースなのである(本当か?)。

そんなルーズで気まぐれな音楽に対して、きっちりと音程を取って、ハーモニーで勝負する「合唱団」で歌っていた人がマッチするのか。
実際に初めて音を合わせた時は、俺は正直「この人は無しだな…」と思った。あまりにもブルースの歌唱方法とかけ離れていたからだ。良い悪いの問題じゃない。「違うな」という表現が一番ぴったりと来る。
だが、なぜかギターのK君は彼女の加入を独断で決めた。正直、彼女の加入を勝手に決めたK君に対しての違和感があった。

バンドの新規メンバーを決めるのに、既存メンバーに対しての斟酌がない彼の態度に、あまり愉快な感情は生まれなかった。バンドというものは、こういった小さな綻びが大きな崩壊を生む。
その後、K君は俺とベースのIT君がまだ早いと言っているにも係わらず、勝手にキーボードを募集し、リハに呼んだ。
そして勝手にキーボードの加入を決めた。段々とギターのK君の横暴さが目に付くようになって来る。

ベースのIT君は、ベースの先生に習っている。つまり座学がしっかりしているので、どういった練習をすべきかなどの内容が理論的だ。ギターのK君は独学でギターを習得した人だから、感覚に頼る部分が大きい。どちらが良い悪いの話じゃない。だが、K君は「そうやって(楽器を)習ってる奴の言ってることは、面倒くさいんだよ」などと言い出すようになってきた。俺に言わせれば、K君の言っていることのほうが支離滅裂である。

ベースのIT君はこのバンドが初参加バンドなので、他のバンドにも参加してみたいと俺に告げた。俺自身もギターで友人とアコースティックギターデュオをやっている。だから、他のバンドを経験するのも良いんじゃないと返した。

酒の席でIT君がそのことをK君に告げると、K君は烈火のごとく怒りだした。
「そんな事を言うのなら、IT君はクビにして、新しいベースを探す」
このバンドには、掛け持ち禁止などというルールはない。現に俺も掛け持ちしているし。IT君は呆れた表情でK君を見ていた。俺が「君の言っていることはおかしいぞ」と非難すると、K君は言い出した。
「このバンドの発起人は俺だぞ。俺が作ったバンドだぞ(だから俺が好きに決めていいんだ)」
俺達は完全に呆れた。ダメだ、こいつ。こいつ酒飲むといつもこの調子なんだよな。アル中かな?

俺とIT君で「いっそ、K君をクビにして新しいギター探すか」と相談までした。いや、本当に冗談抜きで、K君がこのままだと一緒にはやれないなという気分になってきていた。K君は酒さえ飲まなければ良い奴なんだけどな。

前回のリハが終わった時、女性ボーカルが言い出した。
「すみませんが、バンド抜けます。転職するので、土日に休みが取れなくなるので…」
正しく、アウトオブブルー。晴天の霹靂という奴だ。
女性ボーカルが抜けるまではまだちょっとだけ時間がある。キーボードが「じゃあ、今のメンバーでライブやりましょうか」と提案してきた。

その日、俺とベースのIT君と差しで酒を飲んだ。
「とりあえず、ライブまでは静観するか。バンドがどう転ぶかよく判らんし…」
このブルースバンドで決まっている事は、来春までに女性ボーカルが脱退する。そしてその前に現メンバーでライブをやる。その2つだけだ。
その後、どうなるかは正直判らないし、知りたくもない。色々考えると疲れる。今はライブをやるということだけに注力する。

人が絡むと物事は一気に面倒臭くなる。だから、時として独りでやれる趣味やプライベートの余暇に憧れたりもする。でも、人が絡むからこそ面白みを見出せることもある。全く、人というのは面倒な生き物だ。