Some Were Born To Sing The Blues

酒好き(2017年秋に断酒を宣言)、音楽好きな中年のおっさんの日々の呟き。趣味はテナーサックスとドラム。2016年冬に50歳目前で札幌に引越し、2017年春にピアノを始めました。

バラッドをお前に

俺には音楽しかない、なんて格好つけた事を言う気はない。
だが、この札幌で俺がプライベートで最も楽しんでいる事が何かと問われたら、それはやはり音楽という事になるのだろう。

俺が多趣味だったり、スポーツに興味があったりしたら良いのだろうけど、スポーツはサッカー観戦程度。せっかく北海道に暮らしているのに、スキーにも興味が湧かない。若い頃は落語や油絵に興味を持ちたいとか思っていたけど、結局それらに食指が動く事もなく、この歳になっても人に言える趣味と言えば楽器演奏くらい。

でも、それで不都合は特にないから良いのだ。
そして、サックス教室に通い、ピアノ教室に通い、セッションに誘われれば、よっぽど守備範囲外のものでなければ参加表明してきた(さすがに長渕剛縛りのセッションに誘われた時は、お断りしたけど)。

そんな風に調子にのって、色々やっていたら、ドラム5曲、ギター6曲、ピアノ1曲、サックス9曲覚えなくてはいけない羽目になった。負荷あり過ぎである。勿論、ライブやセッションの順番から優先順位がつけられるのだけれども、それでもサックスはタイミング的に同時にやらなくてはいけないのが6曲。おまけにそのうちの3曲は譜面無し。
サックス教室の発表会用に選んだ曲もまだ完成していない。吹くだけで良いのなら、とりあえずは通して吹けるけれども、それじゃただ演奏するだけだ。自分流の表現も何も計画していないし、実装もされていない。

時間もない。
よし、これは練習あるのみだ。ということで、カラオケボックスに行く事にした。いわゆるフリータイム制を使えば、1,000円弱で、最高10時間ボックスで練習出来る(さすがにそんなに長時間サックスは吹けないけれども)。

土曜日の午後一時ちょっと前にカラオケボックスに入る。まずは教室の発表会用の曲である【Isn't She Lovely?】の曲の演出付けだ。要するに、どこで盛り上げて何処で落とすとか、その辺りを決める。吹いては譜面に強弱記号や、自分なりのプランを書き込む。その場その場では「いい感じじゃね!」とか思っても、通して吹いてみるとバランスが悪かったり、退屈なアレンジだったり。
試行錯誤の連続だ。でも、それが音楽の楽しさの一つでもある。
そうやって、自分の中で「これでいいかな…」とOKが出た時は、既に三時半を回っていた。うーむ。ま、しょうがない。

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よし、次はセッションでサックスを担当する曲の譜面起こしをしなくてはいけない。MP3プレイヤーでサックスの音が聞こえる部分をリピート設定にして音を探る。俺は正直言って音感が良くない。だから多分、他の人よりも耳コピーして譜面を起こす時間が余計に掛かる。
「えーっと、ここはシ→シ♭→レ」だなと、五線譜に書き込む。ちなみに、ちゃんとオタマジャクシを書くんじゃなくて、直接【シ→シ♭→レ】と五線譜に書き込んでいる。俺、譜面書けないので(読む事は出来る)。
だったら、五線譜じゃなくて、普通の大学ノートに書くんでもいいんじゃない? そう思う人もいるだろう。だが、シ→シ♭→レと書いただけじゃ、それが低音のシなのか、真ん中のシなのか高音のシなのかがはっきりしない(サックスは基本的にはマックス3オクターブまでしか音は出ない)。
だから、低音のシの場合は、五線譜の下のほうに、真ん中のシの場合は五線譜の中段に、高音シは、五線譜の上段に書く。これによって、オクターブ判定している訳だ。もしかすると、同じような記載をしている人が他にもいるかもしれない。

譜面に【シ→シ♭→レ】と書いて、今度は実際に曲に合わせて吹いてみる。すると、合わない。あ、レじゃなくてレ♯かあ、みたいな作業が頻繁に発生する。音楽的聴力がないんだよねえ、俺の場合。一般的聴力も加齢のせいか、かなり低下してはいるけれどもね。
悲しい話である。

この譜面起こし作業は、俺にとってはかなり難易度が高い。それにヘッドフォンでずっと同じフレーズばかり聴いているので、精神的ストレスも結構ある。だから休憩取りながらの作業だ。

そうやって、やっと譜面作成作業が終わった時は、もう8時近くになっていた。カラオケボックスに入って、7時間近くが経っていた。よし、最後に一回だけ吹いて終わりにしよう。

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そう思って、一曲ヘッドフォンで音楽を流しながらサックスを吹いていた時だ。カラオケボックスのドアに人の顔が映った。今のカラオケって、ドアに必ず硝子がはめ込まれていて中の様子が見えるようになっているんだよね。
え? 誰だろう。見知らぬ眼鏡のおっちゃんがそこにはいた。俺がドアを開けると、やっぱり知らない人だった。と、その人は俺の部屋に何も言わずに入り込んできた。
一体、なんなんだ?

「いやー、サックスの音色が聴こえてきたからさあ。ここ、結構音漏れるんだねー」
なんだ、クレームか? クレームなら俺じゃなくて店に言ってくれ。
「僕ねえ、マイケル・ブレッカーのファンなんだよねー」(有名なテナーサックスプレイヤーである)
はぁ、と間抜け面して頷く俺。ってゆーか、おっさん何の用だ?
「で、お兄ちゃんは誰のファンなの」
「自分はエリック・アレキサンダーっていうプレイヤーが好きなんですけど」
「誰それ?」
「まあ、ジャズでは若手の部類だと思いますけど。まだ50になってませんし」
「ふーん。まあ、僕も大学ん時は(トラン)ペットやってたからさあ、なんかサックス聴こえてきて懐かしくて」
はあ。それはそれは。てゆーか、だからって、全然知らない人間の部屋に入って来るか?
「でさ、兄ちゃん、なんかバラード吹いてよ、バラード」
悪気はないのだろうけれども、随分図々しいおっちゃんだな。俺は流しのギターじゃねえぞ。
「なんか吹いてよ、ね、バラード」
これはなんか吹かないと、きっとこのおっちゃんは退散しないだろう。仕方ない。俺はうろ覚えの【煙が目に染みる(Smoke Gets In Your Eyes)】を吹いた。

「いいねえ、いいねえ。ところで兄ちゃん、いくつ?」
「もう50ですよ」
「え? そーなの? 見えないねえ。若く見えるよ。いつからやってんの?」
「40ちょい前からだから、10年くらいですかねー」
「そっかぁ、自分もやりたいんだけどねー。なかなか。いやあ、50代でサックス頑張ってるっていいねえ。頑張って練習してねー」やっと、おっちゃんは去って行った。

まさか、いきなり見知らぬおっちゃんにリクエストされてサックスを吹く羽目になるとは夢にも思わなかったな。
こういう時に備えて、すぐに吹ける曲を何曲か準備しておくべきだなあ。
って、そーじゃねえよ。そんな機会、まず起きねえよ。

でも、やっぱりあるかもしれん。「武士千人を雇うのは一時の為なり」って言葉もあるくらいだし。よし、とりあえずあのおっちゃんにまた会った時の為に(会う訳ねーだろ!)、バラードを二曲ばかり吹けるようにしておこう。
とりあえず、【煙が目に染みる(Smoke Gets In Your Eyes)】と【Amazing Grace】にしておこう、極上のバラードだし。元々、途中まで記憶してるしな、二曲とも。
って、また覚えなきゃいけねえ曲が増えたじゃねえか!