2月16日の日曜日。俺は神楽坂でライブを行ってきた。ビートルズのカバーバンドでドラムを叩いてきたのだ。今回は記念にその顛末を記しておく。
去年の夏にオールディーズバンドにSaxで参加することが決まった。そのオールディーズバンドでヴォーカル&ギターをやっているRさんからLINEにメッセージが届いたのは去年(2024年)の11月のこと。
「来年の2月に神楽坂でビートルズのカバーバンドでライブやります。ドラム叩いてくれませんか」軽く誘われた。その誘い方があまりにも自然体で軽かったものだから、俺も深く考えずに「良いっすよー。その日は押さえておきますねー」と返した。この頃、Rさんから矢継ぎ早に3バンドくらいに誘われて、俺自身の感覚が麻痺していたのかもしれない。
11月末にスタジオ練習があるので参加出来るかと問われた。その日は別件のSaxで用事が既にあったので断りを入れる。年が空けて本番前に1月と2月にスタジオ練習をやるとバンドのグループラインで報告を受けた。本番前に2回練習が出来れば、ある程度の感覚は掴めるだろう、俺はそう見込んだ。
ところが1月のスタジオ練習では別のドラマーを呼んでいるので、その人とスタジオ練習をやると言う。意味が判らなかった。これら2回の練習は2月のライブ本番に向けての練習。そのライブにドラマーとして出るのは俺だ。となれば1月の練習も俺を参加させるべきだろう。2月のライブに出られないドラマーと、どうして1月に練習をやるのか? その狙いや目的が一切判らない。1月参加のドラマーがそのバンドの本来のメンバーであるにしても(2月のライブは出られないので、ヘルプとして俺に声が掛かった?)、2月にライブがあるのだから、そのライブに向けて最も効果のある練習をやるべきだと思う。俺はちょっと理不尽なものを感じた。
また、1月の練習が終わったら、セットリスト(ライブでやる演奏曲の一覧)を連携してくれるという話だったが、なかなか決まらなかった。そして俺が練習する最初で最後の2月の合同練習の2週間くらい前に「セットリスト候補」が17曲、送られてきた。唖然とした。ライブの持ち時間は35分だ。バンドはステージに立ってすぐに演奏が始められるという代物ではない。
ギター、ベース、キーボードといった電子楽器はきちんとアンプと繋がるか、音が出るかという確認をしなくてはいけない。そうなると持ち時間35分のうち、純粋に演奏出来る時間は30分程度と思っておかねばならない。勿論、ドラムの俺だってステージに置かれたドラムセットを、自分の演奏スタイル用に微調整する作業が必要だ。ドラムセットに座って10秒後に演奏が出来るものでもない。これらはバンドマンのライブにおける、当たり前の話である。
セットリストを貰ってから2週間、延々とビートルズを日々聴いて、スタジオで個人練習に入ってドラムを確認した。そして、ライブ本番1週間前の日曜日。最初で最後のスタジオでの全体練習。
メンバーのうち、ヴォーカル&ギターのRさん、Aさんは顔馴染みなので心配は要らなかった。問題はベース兼リーダーのWさん、キーボードのMさんだった。何しろ顔を合わせるのはこの日が最初、そして次の日曜のライブが最後なのだ。今後、再会する可能性もゼロではないが、予定ではこの全体練習、ライブ本番の2回のみの縁だ。たった2回のみだからと言って、相性が悪いとライブ本番にも影響する。運よく二人とも良い人達だった。
(live会場のmash Records)
ただ、人柄の問題とバンドのセットリスト過多問題はまた別の話だ。スタジオは3時間予約していた。一通り、候補曲を全て演奏し、バンドとしての確認(曲の始まりや終わりの切っ掛けなど)が必要な曲を繰り返し演奏していたら、あっという間に2時間が過ぎた。完成度が怪しそうな曲はあっさりと除外される。それでも、ざっと12曲程度が残る。スタジオの残り練習時間は約50分程度。俺は【通し練習】をやらないのかと訝しんだ。実際のライブ本番での持ち時間で、俺達が想定しているセットリストは演奏出来るのか、その確認作業をバンドは必ずやる。そうしないとライブ当日に、予定していた通りに演奏が完了出来るか、その目途が立たない。
しかし、このバンドはこの時点でまだ「どの曲をやるのか」が明確化されていなかった。【通し練習】が出来る状態になっていない。俺は諦めた。
ライブ前日、メッセンジャー経由でセットリストが送られてきた。全部で12曲あった。どう考えても35分で演奏出来る曲数じゃない。どうするのか不思議で仕方ない。が、きっと何か考えがあるのだろう、俺はそう思うことにした。後に何の考えもなかった事を知る。
ライブ会場は、東京神楽坂のMASH RECORDSという老舗のライブハウス。ここは、どちらかというとアコースティックギターの弾き語りやデュオがメインのライブ会場。大音量向きじゃない。この日、俺達を含めて5組出演したが、俺達以外の4組はいずれもアコースティックギターデュオ。エレキギター、ドラム、ベース、キーボードの揃ったフルバンドは俺達だけ。
演奏が始まる。記念にメンバー手書きのセットリストを載せておく。2曲ほど、明らかに俺がイントロをミスった。これはさすがに曲の聞き込み不足、練習不足だ。言い訳は出来ない。"Yer Blues"はヴォーカルのRさんがイントロ無しでいきなり歌いだすのだが、曲が始まった瞬間からバンド全体のリズムが狂っていた。ヴォーカル&ギターのAさんが俺にアイコンタクトを送ってくる。あれ? リズムが狂ったのは俺が原因かな? この曲は練習の時も非常にバンドのコンビネーションが怪しかったので想定の範囲内だった。4小節ほどで、なんとか立て直す。この程度で復活出来たのなら御の字だと俺は思っていた。
あと残り4曲というところで、キーボードのMさんが叫ぶ「あと5分しかないよ!」え? まあ、そういうことか。あと5分で4曲出来る訳がない。"Back In The USSR"は飛ばされた。なんだよ、俺、この曲叩きたかったのに…仕方ない。俺はバンドではこのライブ用の助っ人だ。バンド全体の方針に文句を言う(言える)立場じゃない。
なんとか"I Saw Her Standing There"まで無理矢理演奏し切った。この時点で持ち時間はオーバーしていただろう。ラストに予定していた"Hey Jude"は遣らず仕舞いか。俺はがっかりした。この曲はヴォーカル&ギターのAさんに参加して貰うので選んだ曲と聞いていたのだが…
リーダーのWさんがスタッフに「あと1曲良いっすか?」と訊いている。無茶苦茶である。他のライブハウスでは、こんな乱暴なリクエストは許されない。この店の運営が緩いから許されたのだろう。俺達は最後に"Hey Jude"を演奏した。"Hey Jude"が演奏出来たことで、俺は非常に納得し、満足した。それにしても、やはり12曲は最初から無理があった。セットリストについての認識が甘すぎた。だが、それは俺がとやかく言うことじゃない。
演奏が終わってハイボールを飲んでいると、お客さんから「僕もドラムやるから判るけど、お兄さん、リンゴ属性じゃないね?」と言われる。これは良くも悪くも「お前の叩いているドラムはリンゴ・スターとは全然違うね」という意味合いだ。それは俺も自覚している。正直言うと、どういったドラムがリンゴ・スターのドラムなのか、俺は判らない、知らない。リンゴを馬鹿にしているとか、軽んじているのではない。リンゴのドラムを叩く、意識する以前に、俺の腕では、なんとかセットリスト12曲を無難に叩く、というので精一杯だったのだ。それに何曲かは無難にすら叩けていなかった。
「お兄さん、本職は何なの?」とさらに問われる。これは「普段聴いている、叩いているドラムはどんなジャンル?」という意味だろう。俺はそこで「いや、普段はSax吹いてるんです。今回のドラムはヘルプです」と返す。そのお客さんは驚いていた。
俺は今回のビートルズのカバーバンドでドラムを叩いた、叩けたことに関しては自分をかなり評価している。2週間足らずで17曲のドラムパターンを頭に入れ、曲の構成をイメージし、本番をこなせた。無論ミスは何ヶ所もあった。俺がもっとドラマーとして腕があったら、俺がもっとビートルズに精通していたら、バンド全体の出来はずっと良くなっただろう。俺のドラム演奏がバンド全体の演奏評価を下げたのは想像に難くない。だが、それは言っても栓のないことだ。俺は俺の実力は出来る限り発揮したつもりだ。結果が悲惨なのは、俺がドラマーとして最下層だから、これは如何ともしがたい。F1のレースに軽自動車が参加しているようなものだ。
最後にドラマーとしてライブを経験したのは約2年前。やった曲はブルースだった。俺が過去にドラマーとして経験したライブで叩いた曲はブルース、デフレパード(ハードロック)だけだ。ここにビートルズが加わった。今後、俺がドラマーとしてビートルズの曲をライブで演奏する日が来るかは判らない。
だが、この日、ライブでビートルズを叩いた。これは誇っても良い気がするのだ。
当日ライブで演奏した”Come Together”の動画を貼っておく。お時間あればご覧ください。www.youtube.com