風邪を引いて、週末は寝込んでいた。こういった時、一人暮らしは辛い。札幌生活を始めた最初の四ヶ月も一人だった。だが、運が良い事に風邪は引かなかった。運が良いというのはちょっと違う。札幌の一人暮らしの時は、風邪を引かないように細心の注意を払い、うがい、手洗いを実行し、きちんと肉や野菜を大量に入れた鍋を毎日食べていた。食生活はかなりまともだったのだ。
それに比べて東京生活は勝手知ったるものだ、という自惚れがあった。それに季節は初夏。風邪を引くはずがないという思い込みもあった。だが、札幌時代と違い、まともなものを殆ど食べていない。カップラーメンやサンドイッチなどしか家で食べていないのである。そして相方もいないものだから、酒煙草やり放題。健康な生活とは無縁だ。
一応、コンビニで買って来た「これで一日の必要な野菜の半分が摂れるサラダ」みたいなのはよく食べてはいたが。
そもそも、IHのワンコンロで、まな板をおくようなスペースもないキッチン。こんなところで食事を作ろうなんて意欲が沸く訳がない。頑張って食事を作ったところで、一人で食べる食事ほど不味いものはない。これできちんと食事を作って食べる習慣が出来る人がいたら、それは尊敬する。少なくとも俺は無理だ。
結局、風邪を引くべくして引いたのだ。咳をしてもひとり。
日曜や月曜は、風邪を引いた怠い身体を引きずってスーパーに行き、サンドイッチやおにぎりを調達し、薬局で風邪薬とバファリンを手に入れて来た。薬剤師が「同時に服用しないでくださいね」と言うが、そんなものは無視。俺はいつも、パブロンを一回で二袋、バファリン二錠を同時に摂取だ。これで風邪は治る(と思い込んでいる)。
ゲホゲホ言いながら、シングルベッドで横になっていると、侘しいなあと思う。こういった時に、人間は弱いものだということを実感する。いい歳して、今まで色々経験してきたつもりでいたが、それでもやはり身体が弱った状態で一人だと、なんだか弱さが倍増される気がしてくる。実際、俺は弱いんだけどね。
よく一人で生きている人を「強い人」だと称する傾向があって、それに対して一人で生きている人が「強くなんかない。でも自分は一人だから、自分でやるしかなかったからだ」と反論する構図がある。これは或る意味どちらも正しい。
俺は随分と長く、誰かと一緒に生きて来た。相方と出逢う前は、別のパートナーがいた訳で、そういった意味で純粋に一人だった期間は実はあまりない。だから、長らく一人で耐えるという環境下にいなかった。これは年齢を重ねれば、一人でいる期間が長くなれば、耐えられるようになるというものじゃない。
慣れるものじゃないのだ。ただ、選択肢がそれしかなければ、そうするより他ない。俺だって、この歳まで一人で生きてきたら、「一人は辛いな」と思わず、「一人ってのはこういう時、不便だなあ」と思うより他なかったろう。
何も、熱々の御粥やスープを作ってくれなくても良いのだ。こっちが寝ていると様子を伺いに来て「大丈夫?」と一言、声を掛けてくれる。その人がいるかどうかでだいぶに変わって来るのだろうと思う。
風邪はもう治りかけてるし、週末は昔のバンド仲間から誘われて遊びに行く予定もある。来週以降は、東京時代のサックス仲間と飲む機会もセッティングして貰えることになっている。つまり、俺の私生活は決して悪くないということだ。
だが、それと心を許せる相手がそばにいるか否かというのは全く別次元の問題だ。
全く、人の気持ちの持ち様というのは面倒くさいものだ、ゲホゲホしながらそう思う。