Some Were Born To Sing The Blues

Saxとジャズ、ピアノとブルース、ドラムとロックが好きなオッサンの日々の呟き

"Whisper Not"は囁かない

丁度、1週間前の話になる。通っているSax教室の発表会でSaxを吹いてきた。

「10月に発表会あるんですけど、出ませんか?」レッスン中に、SaxのO先生に問われた。あれは8月の終わり頃だったろうか、それとも9月に入っていただろうか。
今年は、7月に札幌まで遠征に出掛け、昔のバンド仲間と一緒に演奏をした。正直、今年のSax絡みのイベントとしては、これが大き過ぎるくらいに大きいものだった。Saxに関しては今年はこれで打ち止めでいいや、そう思っていた。だが、「フルバンドで演奏出来ますよ」そう言われて、速攻で「出ます」と返事をしていた。

さて、問題は曲だ。札幌で演奏した曲はバンドのセットリストに従って吹いたから、当然俺に選択権はなかった。尤も演奏した曲は全て楽しかったから何も問題はない。
今回は、あくまでも俺が主役だから、俺が好きに選べる。当然やるのはジャズとなる。
「『チュニジアの夜』がいいかなぁ」俺が軽く言うと、O先生が「その曲やる人いるんですよ」と暗に否定してくる。ま、この曲はスタンダードだし、有名だ。やる人がいてもおかしくない。
俺の中でどうしても『チュニジアの夜』をやりたいという強い想いがあるのならば、強硬にやらせて貰うのだが、そこまでの想いはない。
「そーだなー、"Whisper Not"がいいかな」俺は言う。"Whisper Not"は、10年くらい前に相方がピアノで演奏した曲だ。ジャズのスローバラードとでもいう曲で、初めて聴いた時に「いい曲だなあ」と思ったのであった。「いい演奏だなあ」と思ったのではない。当時はピアノに関してはあまりよく判っていなかった。と偉そうに書いているが、今もピアノのことはよく判っていない。

O先生と曲のアレンジや構成について話し合う。
「ピアノのイントロとか無しですか?」
「イントロ無しで、いきなりSaxから始めましょう」
「ソロなんですけど、今回はアドリブ(その場で即興で考えて吹くこと)とか無しで、ちゃんと譜面に起こしたものを演奏するという形にしたいです」
「了解です。なんか、吹いてみたいソロとかありますか?」
「探してきます」
そんな遣り取りをした。ジャズをやるのだから、Saxソロはアドリブで通すという考えもある。だが、俺は「自分が無能である」ということを理解している。ようは、Saxソロを丸々アドリブにした場合、必ずグダグダになるだろうという想像がついた。
また、俺が演奏する場は、ジャズバーでのセッション場でもない。バンドのライブ会場でもない。音楽教室の発表会だ。つまり、ジャズ好きな人が集まってくるのではない。演歌が好きな人、クラシック畑の人、J-POPを普段聴いている人なぞ様々。そこに「ほーら、ジャズSaxのアドリブプレイだ」などと粋がって披露しても意味がない。おまけに俺のアドリブプレイだから、格好良い訳がないのだ。
それよりも、最初からある程度メロディの完成された既存のソロをカバーするほうが理に適っている。

今は良い時代だね。ネットを漁ると、"Whisper Not"のソロプレイがいくらでも見つかる。おまけに譜面も載っているのでさらに助かる。
次のレッスンでO先生に譜面を渡し、「これで行きます」と宣言する。
「えーと、テーマ吹いて、コーラスB行って、その後Saxソロですね。ピアノソロはどうします、入れますか?」
「入れて下さい。ってゆーか、ピアノソロ聴きたくてこの曲やるようなもんなんで」
これは本心だった。この曲をSaxで吹きたいというよりも、この曲を演奏したい(つまり俺自身の楽器はなんでも良かった)という想いのほうが強かった。

本番の演奏に関しては、俺が自分でとやかく言うことは何もない。本人の言い訳なんか読まされても仕方ないだろう。下に実際の演奏動画を貼っておくので、お時間ある方は良かったら聞いてあげて下さい。

www.youtube.com演奏終わってから、相方が(今回動画を撮ってくれた)言う。
「全然"Whisper"してないじゃん!」
"Whisper"=囁く、である。相方からすれば、この曲は「囁くようにSaxを吹くべきだ」という主張なのであろう。確かにそれも一理ある。だが、曲をどう演奏(アレンジ)するかは人によって違う。正解、不正解はない。
俺のアレンジが相方の好みに合わなかった、それだけの話である。
「あのSax(テナーSax)じゃ、低すぎるんじゃない、もっと高い音で吹くべきだよー」相方は更に言う。
「アルトSaxで吹けってか? 無理だよ」
「なんで? アルト持ってたでしょー」
「アルトは叩き売った。それで熱川温泉の旅費にしたんだよ」
昔、持っていたアルトSaxを売って温泉旅行の費用にしたのであった。相方はそれを聴いて、一瞬黙りこんだ。
「じゃあさ、今度はピアノで"Whisper Not"やりなよー」
「まだ、レッスンでコードやってんだぜ。"Whisper Not"をピアノでやるのに何年掛かることやら」

ピアノで何か1曲やるのは、まだまだ先の話である。だが将来ピアノで弾く曲目リストに、1曲載ったのは間違いないようだ。