Some Were Born To Sing The Blues

Saxとジャズ、ピアノとブルース、ドラムとロックが好きなオッサンの日々の呟き

俺とお前と貴方と君と…

このBlogの一人称は「俺」で統一している。統一しているというか、普段の言葉遣いでも俺の一人称は「俺」だ。仕事場では「私(わたし)」を使用している。

男性の一般的な一人称としては「僕」があるけれど、俺は自分を指す場合に「僕」とは言わない。俺が日常生活で使う一人称はプライベートでは「俺」で、仕事場やあまり親しくない人の前では「私」となる。

20代半ばの頃、職場で話をしていた時に「僕は@@@@だと思います」みたいな感じで「僕」という一人称を使った。その場には俺の憧れの女性上司のMさんがいた。Mさんは身長170センチちょっとの、スリムで足の長い素敵な女性だった。
入社初日に挨拶をした時、タイトスカートからすらりと伸びた長い脚がセクシーだったのを昨日のように覚えている(もう30年以上も前の話だ)。
で、だ。Mさんが俺の「僕」発言を聴いて噴き出した。
「***君さぁ、ボクって言葉、似合わないよー」
Mさんは深い意味や考えがあって言ったのではないと思う。だが、俺は憧れのMさんに「僕という一人称は似合わない」と言われた事を深く心に刻んだ。そうか、「僕」って言葉は使わないほうがいいのか、と。

それ以来、職場では「私」という人称を使うようにした。仕事場以外では「俺」だ。Mさんに指摘を受けて以来、俺は「ボク」という言葉を封印した。それ以後、今日に至るまで俺は「僕」という言葉を発した事がない。

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30代前半から半ばくらいの時に、4つ上の女性と交際した事がある。別に珍しい話でもなんでもない。
彼女と知り合った頃は、普通に彼女の苗字をさん付けで呼んでいた。彼女も俺の苗字をさん付けで呼んでいた。知り合いになって、いきなり付き合い始めたのではない。いわゆる飲み仲間だった。飲み仲間が7~8人いたかなあ。
あの頃は特に生産的な事をするでもなく、ただダラダラと酒を呑んで過去の恋愛話を皆でして、馬鹿話をするような時間が多くあった。それが楽しかったと言えば楽しかった。
当時はまだ、サックスもドラムも始めていなかった。学生時代の仲間と組んだバンドも自然消滅していた。だから酒を呑むくらいしかやる事がなかったのだ。ある意味、物凄く無駄に時間を消費したような気もするし、あの非生産的な時間にも意味があったとも思える。

或る日、飲み仲間の男性の家で呑んだ事があった。彼の家は埼玉の戸田市のほうにあった。呑んでいる途中で何か(酒か肴か、或いは両方か?)欲しくなり、近くのスーパーまで買い出しに出掛けた。その時、4つ年上の彼女と一緒に出掛け、気付くと二人だけで呑む約束をしていた。どちらから誘ったのかは覚えていない。ただ、きっと俺が酔った勢いで彼女を誘ったのだろうという推測はつく。

彼女と新宿の紀伊国屋書店の前で待ち合わせて、歌舞伎町のバーで酒を呑んだ。大人の男女が2人きりで酒を呑んで、何も起きない筈がない。或る意味、当然の結果となった。
付き合い始めてすぐに、俺は彼女のファーストネームを呼ぶようになった。4つ年上だったけれど、呼び捨てだ。

俺は人生でそれほど沢山の女性と交際した事がある訳じゃないけど、交際相手は必ず呼び捨てだ。ちゃん付けとかした事がない。別段、何かポリシーがあるって事でもない。単なる、そうしているというだけの話。
彼女は自分よりも年下の俺を、暫くは変わらず苗字+さん付けで呼んでいた。なんでなのかは判らない。年下の男性と付き合う事に照れや恐れみたいなものがあったのかもしれない。後に彼女から聴いた話を総合すると、俺にはそう感じられた。また、彼女は厳格な家で育ったので、その影響もあったかもしれない。話を聞くと、典型的な男尊女卑の家だったようだから、年下であっても男性を呼び捨てにすることが、無理だったのだろう。彼女は自分の父親にもいつも敬語を使うと言っていた。

いつまでも苗字で呼ばれるのが他人行儀な気がしたので、彼女に「名前で呼んでくれよ」とリクエストした。すると彼女は俺の名前をさん付けで呼んだ。あ、やっぱり「さん」はつけるのかと変なところで感心した記憶がある。
年上の彼女を俺は呼び捨てにして、年下の俺を彼女はさん付けで呼んだ。不思議な感じだった。俺は酒を呑みながら、タメ口で彼女と会話し、彼女の名前を呼び捨てにしたり、或いは「お前」と呼んだりした。
彼女はずっと敬語を使って、「俺の名前+さん」で呼ぶか「貴方」と呼ぶかのどちらかだった。俺を呼び捨てにする事も「キミ」と呼ぶ事もなかった。

彼女が俺との付き合いで一定の距離を置いていた訳じゃない。単にそういった言葉遣い(呼び捨てやら、上から目線的な発言とか)が出来ない人もいる。彼女はそういった言葉遣いが出来ないタイプの人だったというだけのことである。だからといって、さん付けで呼ばれるのが嫌いだったのでもない。彼女が俺を「名前+さん」で呼ぶ時の声色には、充分な親愛の情が感じられた。よそよそしさは微塵もなかった。

或る日、彼女からメールが来て(まだ、スマホもLINEもなかった時代である)こう書かれていた。
「貴方に乱暴に『お前』って呼ばれたりすると、ああ、私は貴方の物なんだなあって実感出来て嬉しくなる」
当時彼女が自身のblogに「私はM気質なんですよね」と書いていた事を思い出した。生憎、俺はそういった癖はない(SでもMでもない)。

前にネットで、ある女性芸能人が「たとえ好きな男性でも『お前』って呼ばれるとムカッとくる」という記事を読んだ。そりゃそうだよなあ。「好きな人であってもお前呼ばわりされたら、女性も嫌な気分になるだろうなあ」と他人事でその記事を読んでいた。
暫くしてから、あれ? そういや俺も交際相手(しかも年上)を『お前』と呼んでた事あるなあと思い出したので、昔話を書いてみた。

なんと呼び合おうが、当人同士が納得してれば、それで良いってだけの事なんだけれども。