Some Were Born To Sing The Blues

Saxとジャズ、ピアノとブルース、ドラムとロックが好きなオッサンの日々の呟き

親から貰った二つの教え

俺が子供の頃(とは言っても小学生から十代の半ばくらいかな)、人気の刑事ドラマと言えば「太陽にほえろ」と「Gメン75」だった。俺はどちらも好きだったが、どちらかと言うと、Gメンのほうが好きだったかな。

Gメンのエピソードで今でも覚えているのが、「アルコール漬けの小指」というタイトルの話。もしかすると「ホルマリン漬けの小指」だったかもしれない。

兄貴が無実の罪かなんかで警察に捕まって、それを弟が「兄貴は無実なんです。調べて下さい」と警察やら関係者にまとわりつく。すると、ヤクザ達が弟を事務所に引っ張っていって(この辺りの話の流れはよく覚えていない)、「てめえが嗅ぎまわるから、組に迷惑掛ったじゃねえか」と弟の小指を切り落とす。いわゆる指詰めって奴ですな。
なんで、弟が指を詰める羽目になったのか、子供の頃の記憶だけなので、詳細は判らない。だが、俺からすると「兄貴の無実を訴えていただけで、小指切り落とされるのかよ、ヤクザ怖い」って感じだった。

小指を失った弟がその後、どんな事件を起こしたのか、どういった事件に係わったのかは忘れてしまった。もう一度見てみたいけれど。印象的なのは、小指を切り落とされた後、弟は左手に白い手袋を常時しているシーンがあったということだ。

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と、なんでいきなりヤクザの指詰めの話をするかと言うと、子供の頃、親によく言われたからだ。
「将来、どんな事があっても、ヤクザにだけはなるな。連帯保証人の判だけは押すな」
これは多分、中学生くらいの時に言われたと思う。そもそも、普通に群馬の片田舎で暮らしていた中学生が、どうやったらヤクザに成れると言うのか。五十年以上生きてきたが、未だにヤクザな人と知り合いになった事もないし、会話もした事ないので、そう簡単にヤクザにはなれないのだろう、多分。
そもそも、ヤクザになるには、それなりの覚悟とかなければ無理だろう。俺みたいな小心者には向いていない世界だ。

連帯保証人の判も押すような機会には遭遇していない。俺は社会人をスタートさせた会社が、社員15人程度の零細企業だったから、連帯保証人の話は割と身近にあった。社長は資金繰りで日々苦しんでいたし、会社は俺が入社して二年も経たないうちに傾き始めた。
俺がサラリーマンになって最初に貰ったボーナスが43万円だったのだけれども、その会社で貰った一番良いボーナスが最初のそれだった。それ以後はボーナスは面白いように減って、最後は出なくなった。出なくなったどころか、給料すらも遅配する有様。
そして社長は、部長に連帯保証人を頼んだらしく(これは、経理担当の女性社員経由で知った)、最終的に連帯保証人になった部長は自宅を取られた。

俺からすると、この会社が持って数年というのは、経済に疎い俺ですら判った事だった。それなのに、なんで連帯保証人の判を押したのか、未だに判らない。会社が復活する要素なんかどこにもなかったのに。部長が独身とかならまだ判る。部長は妻子がいたのに。
会社が潰れて、部長が自宅を持って行かれた時に、俺は親の言葉を思い出した。確かに、連帯保証人の判なんか、軽々しく押しちゃいけない。

あの時、部長は何を考えて判を押したのだろう。俺だったら、何があっても判なんか押さない。押せば、自分の持ち家が抵当に持って行かれて、そしてそれは火を見るよりも明らかだったのだ。
彼はあの頃、40代半ばだったろうか。会社の情勢が見えていなかったとは思えない。だとすると社長の甘言に騙されて判を押したのだろうか。それにしても間抜け過ぎる。俺だったら、社長に何を言われても判なんか押さない。
下手な同情心からだったのだろうか。だが、その甘い考えが元で家を手放したのだから、代償は大きい。

俺は五十年以上生きてきて、この親からの二つの教えだけは守った。というか、そういった状況に遭遇しなかっただけの話でもあるけれど。
運良く、警察のお世話になるようなこともなければ、借金塗れの生活になって「首でも括るか」といった心情にもならなかった。それだけでも、親の教えを守って生きてきたことに意味はあるのかもしれない。