Some Were Born To Sing The Blues

Saxとジャズ、ピアノとブルース、ドラムとロックが好きなオッサンの日々の呟き

朝のワンシーン

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朝、最寄り駅のホームに昇ると、人で溢れていた。すぐに察した。
「ああ、電車が遅れているんだな」
電車が遅延するのなんて、東京では日常茶飯事だ。別に珍しくもなんともない。

いつもの三倍くらいの人がホームにいる。これは電車が来たところで、何度かやり過ごさないといけないな。きっと遅刻になる。そう思った俺は、鞄から会社支給のiPhoneを取り出した。チームのメンバーに「遅刻します」メールを送ろうとした。が、iPhoneの電源が入らない。ああ、バッテリー切れだ。普段、充電とか気にしてないからなあ。会社支給のiPhoneなんて、鞄に入れっぱなしである。
ま、しょうがない。連絡の手段がないのだから、諦めるより他ない。現場に到着してから、リーダーにごめんなさいすればいいだけの話。

それから、ホームで40分程待った。電車は二本乗り過ごした。混み過ぎていて乗れなかったからだ。車内は地獄のように混んでいた。普段では考えられない混み具合だ。
乗換駅に着いたら、駅のベンチに倒れこんでいる女性がいた。普段あり得ない混雑で気分が悪くなったのだろう。駅員が女性に声を掛けている。
「電車遅延でご迷惑をお掛けします」のアナウンスが流れていた。遅延は鉄道会社の責任ではない。自動車が、電車の本体にぶつかったのだという。となると、車のほうの踏切無視とかが理由だ。全く酷い話である。

職場のある駅に辿り着いた。既に時間は9時半を回っている。始業時間に30分も遅れた。今更、慌てても仕方ない。ということで、駅前の喫煙所で一服する。
煙草を吸っていると、一人の若い女性がぼんやりと立っているのに気付いた。20代半ばから、30代前半くらいの歳だろうか。彼女は仕事に行くにしてはルーズな服装だった。スーツではない。かといって、遊びに行くにしては華がないファッション。そして化粧っけが殆どない。さすがにすっぴんという事はないだろうが、一瞬すっぴんなのかなと思わせるような雰囲気だった。

彼女の表情がとても不思議な雰囲気だった。笑顔はなく、今から何か期待に満ちた出来事が起きる事を予感している風情でもない。かといって絶望感に溢れて、泣き出しそうというのでもない。
なんとなく、ただぼんやりと時間が過ぎるのを待っている、そんな風に俺には感じられた。
実際のところ、彼女がどういった状況で、何か或いは誰かを待っていたのか、それすらも判別はしなかった。

ただ、何とも言えず良い表情だった。何処か遠くを見ているようでもあり、何も目に入っていないようにも解釈出来た。これから、仕事で嫌な気分になる前に、ほんのちょっと時間潰しをしていたという推測も当てはまりそうでもあるし、楽しい事が実はあって、それを心に秘めて待っているとも思えた。
当然、どれが正解かは判らない。いずれも当てはまらないのかもしれない。彼女は凄く単純に、何も考えずに駅前にやってくるバスを待っていたのかもしれない。

喫煙所で呑気に煙草を吸っているオッサンが、実は電車遅延で仕事に遅れているなんて想像する人はいないだろう。そして彼女がどういった状態で、駅前でぼんやりしていたのか、それを知る術もない。
もしかしたら、彼女自身もどんな心の有り様だったのかすら、判らないかもしれない。

誰もが人には判らない何かを抱えて生きている。そんな散文詩みたいな事を、朝の駅で彼女を観ながら考えた。