Some Were Born To Sing The Blues

Saxとジャズ、ピアノとブルース、ドラムとロックが好きなオッサンの日々の呟き

リーダーになるのは大変だ

世の中は、リーダー的資質を持つ人間とそうじゃない人間の二種類に分類される。無論、俺は後者だ。
人の上に立つという事は、それは相応の責任も負わなくてはいけない事を意味する。俺にはそんな能力も無ければ、気概もない。人に使われて、それで「はいはい、仰せの通りでございます」と頭を低くしているほうが向いている。

20代の頃に勤めていた会社の社長がよく言っていた。
「最初からそういった器のある人間なんかいない。器が人を作るのだ」
言い分は判る。最初はそういった人としての大きさを持っていなくても、無理矢理その立場に置かれる事によって、成長する。社長はそう言いたかったのだろう。その意見は半分肯定するが、半分否定する。
確かに、まだ能力が足りない人間に、能力以上の立場や仕事や責任を与える事によって成長する人間もいる。だが逆にその重さに耐えきれずに潰れてしまう人もいる。

「器が人を作る」と社長は言ったが、俺が30歳の時に、その会社は倒産した。社長はその器では無かったという事だ。だが、今思い返すと、その社長はまだマシなほうだった。俺はその会社の残党メンバーと一緒に新たな会社を立ち上げた。俺の立場は役員であり、システム部の開発部長。役員とか部長とか言っても、社員が10人に満たない会社だ。そんな零細企業の役員なんて、有難くも何ともない(権力もないし、威厳も金もない)。
この会社の社長に祭り上げられたのが、増田さん(仮名)。この人は、本当に社長としての器が全く足りていなかった。その覚悟もなかった。なんで社長になったかと言うと、当時あった彼の借金を会社を使って減らそうとしていたからだ。こういった人間が社長なんかやるべきじゃない。少人数とは言え、従業員を預かる立場。そしてその従業員には家族がいる。その人達のことを考えたら、社長としての責務を果たさなければならない。その覚悟のない人間が社長なんかやってはいけない。

増田さんは、取引先との契約交渉の場に俺を連れて行った。立場上、それは構わない。
契約交渉はもつれた。こちらに不利な形で話が進む。話は延々と堂々巡りでいつまで経っても締結しない。向こうには向こうの狙いがあり、こちらにはこちらの許容値がある。
最終決定(こちらに分の悪い条件を呑む)を下すのは増田さんの役目だ。だが、彼は途中でその役目を放棄した。俺に向かって「君が決めてくれ」と。俺はその瞬間、この馬鹿な男をぶん殴ってやろうかと思った。
ただでさえ取引先に舐められているのだ。その敵の目の前で、大将が職務放棄。相手からは「こいつ(この会社)は組み易い相手だな」とさらに思われるだけだ。

その後、俺は増田さんをただのお飾りの社長と認識して、必要以上の話を一切しないようにした。俺の直属の部下も「増田さんは信用出来ません」と言い出す始末。そりゃそうだ。増田さんにはリーダーとしての資質もなかったし、決意も何もなかった。

今の現場で、俺は10人弱のチームで仕事をしているのだが、そのチームのリーダーも大変だなあと思う。先週辺りは仕事が忙しくて、俺は職場を出るのが、ほぼ22時くらいだった。以前の現場に比べればそれでも天国だけれど(こういった感想を持つ事自体もかなりおかしいが)。
そして、リーダーが俺より先に帰るのを一度も見た事がない。メンバーの作業管理をして、メンバーの仕事の結果を確認して、さらにクライアントや他チームのリーダーとのミーティングなどなど。労多くして報われない立場だ。これで手当てでも出るのならまだ救いがあるが、うちの会社はそういったものがないから、ひたすら苦労と苦悩だけを背負いこむ形になる。

リーダーというのは、仕事のみならず、プライベートでもやはり大変である。俺が今やっているバンドのリーダーも、好き勝手を言い出すメンバーの意見をまとめ、どう考えても不都合のあるメンバーの交代を考えたりしなくてはならない。
意見を纏めるくらいならまだ良いけれども、「どう考えてもこの人とやっていくのは無理だな」と思ったら、そのメンバーにクビを言い渡さなくてはいけない。これも精神的にキツい。中には、そういった事をするのに、何の痛痒も感じない人もいる。だが、うちのバンドのリーダーは良くも悪くも、【良い人】なのでそういった作業に精神をすり減らしている。今はバンドもメンバーチェンジが落ち着いて、良い状態にはなっているが。
仕事なら、ある意味「これで食っているのだから」と諦めもつくかもしれない。だが、プライベートの趣味のバンドなんて、非営利目的だ。頑張ったところで、一円になる訳でもない。それでも、リーダーとなった以上、面倒事を引き受けて、それを解決していかねばならぬ。何故なら、それがリーダーの役目だからだ。他のメンバーはそんな厄介ごとの解消や解決をしてはくれない(頼めば、ヘルプはしてくれるだろうが)。

俺が公私ともに、リーダーという立場になった事は二度しかない。一度目は小学校の時。町内の少年野球チームのキャプテンをやらされた事があった。これは田舎の小さい町だったので、6年生が俺しかいなかったからだ(つまり能力を認められてという事ではない)。単純な消去法である。
そして、二回目は40代の時にほぼ10年働いてた現場で、サブシステムのリーダーを任された時。この時は、メンバー(部下)が4~5人しかいない小所帯だったし、メンバーがみな気心の知れた良い奴ばかりだったので、楽と言えば楽だった。それでもクライアントからは厳しい言葉を言われて、つらい思いをしたりもしたが。
もう、俺の人生において、俺がリーダーという立場になる事はないだろう。そもそもなりたくもない。こういったものは間違いなく先天的な資質が影響する。リーダーとしての能力、気構え、素養といったものを兼ね備えていない人間がリーダーになると、当人も周りのメンバーもどちらも不幸にしかならない。

だからこれは皮肉とか冗談ではなく、本気で思っている。人の上に立てる人間というのは、それだけで称賛に値する。