Some Were Born To Sing The Blues

酒好き(2017年秋に断酒を宣言)、音楽好きな中年のおっさんの日々の呟き。趣味はテナーサックスとドラム。2016年冬に50歳目前で札幌に引越し、2017年春にピアノを始めました。そして2019年6月に東京暮らしを再開。生々流転の日々です。

6℃は暖かいのか、寒いのか?

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昼休みに、ビルの外に出てみるとやけに暖かい。「そりゃ、もうすぐ三月だもの。暖かくても不思議はないでしょ」そう思うのは素人の浅はかさ。というか、北国を知らない人間の発言だ。
三月がやってきたとしても、まだまだ札幌は寒いし、雪も降る。それでも今日はかなりの暖かさ。気温を確かめると、6℃だった。そりゃ、暖かいわけだ。ちょっとばかり嬉しくなり、早速東京の友人知人の何人かに「今日は暖かいよー。6℃もあった!」とメッセージを送った。
すると、東京の人々からは、判で押したように同じような返信が来た。
「東京は雨が降っていて、6℃。寒いよー」
え? 6℃が寒いだって、何寝言ほざいてんだ、この馬鹿どもは。6℃もあったら天国じゃないか。こっちは、雪まつりの時はマイナス5℃だったし、その前後はマイナス11℃まで気温が落ちたんだぞ。

と思ったが、俺だってずっと東京にいたら、きっと6℃で寒い、寒いと言っていた事だろう。もう俺は冬の6℃を寒いと思える人間ではなくなってしまった。
既に東京の冬の平均気温も判らないし、今までどんな風に東京の冬を過ごしてきたかすらも忘れてしまった。人間は忘れる生き物だ。当たり前の話だが、たった二年、三回札幌での冬を過ごしただけで、自分が札幌の人間になったとも思っていない。かといって、既に俺の中に東京時代の名残はない。そう考えると、俺は東京人でもないし、札幌人でもない。獣と鳥の争いでどっちつかずでいた蝙蝠みたいなものなのかもしれない。

同じ6℃であっても、東京人はそれを寒いと言い、札幌人は暖かいと言う。ある意味、それが当たり前の話なのだ。同じ気温でも感じ方が違うなんていうのは判り易い例だ。同じ札幌に住む人だって、6℃を暖かいと感じる人もいれば、寒いと感じる人もいる。そういう事だ。

人によって、寒さの感じ方が違うように、痛みの感じ方、辛さへの耐久度だって違う。そんなのはわざわざ書くまでもない。だが、たまにそういった物凄い当たり前の事を当たり前と理解出来ずに、他者に強要する人がいるので驚いてしまう。
「俺だって出来たんだ。だから君も出来るよ」という意味の事を、俺は他人には絶対に言わない。人によって出来る出来ないの境界線は違う。頑張れる限度も違う。当然の話だ。もっとも、俺が人に「やれば出来るよ」と言わないのは、単純にそういった意味の事を俺が言われるのが大嫌いだから、というだけなんだけれども。

例えばだ。結婚を目前に控えて婚約破棄された30歳の女性がいるとする。妻子と家のローンを抱えているのに突然リストラに遭った45歳のサラリーマンがいるとする。さて、より悲惨なのはどちらだろう? 答えは出たかな? 無論、答えなんか出ないだろう。出る訳がないのだ。立場によって、状況によって辛さの度合いなんて変わる。この質問を20代の女性に投げかけたら、婚約破棄された女性のほうが可哀想と言うかもしれない。30代後半の家を買ったばかりの男性に訊いたら、サラリーマンのほうが辛いと答えるかもしれない。
そういう事だ。

また、仕事が辛い、仕事がキツイと言っている社会人も沢山いることだろう。だがその痛みや辛さの内容、重さは人によりけりだ。他人がとやかく勝手に推し量れるものでもない。
20代半ばの頃、なんとか仕事で一人前になろうと俺はあがいていた。当時、「俺は将来ちゃんとこの仕事で飯が食っていけるようになるのだろか」と不安で仕方なかった。だが、有効な一打を見つける事が出来ないまま、俺は30代を迎えた。仕事は相変わらずだった。半人前のまま20代を終えてしまった。そしてたまたま持っていたニッチな経験で仕事をこなす事が出来た。そのせいで安心してしまい、自堕落な30代を過ごしているうちに、40代がやってきた。40代はそれなりに仕事をこなせたが、それは色々な幸運と縁が重なっただけの話だ。俺が仕事人として一番誇れるのは40代の頃だけれども、それは数えきれない運と縁がなければ無理だった。
50代がやってきて、もはや俺に残された方法は、いかに誤魔化すかだけだ。今更色々とやろうとするだけの気概も気力もない。それを非難、否定する人もいる事だろう。
だが、50代を迎えてからも仕事で頑張るというのは、6℃は暖かいと感じる事の出来る人間の台詞だ。俺には6℃は寒くて仕方ないのだ。だから、そこでまだ頑張ってみようぜとか言うのは、止めて欲しい。ナンセンスだ。頑張れる人は頑張ればいい。だが、そうじゃない人も沢山いる。

俺は上を目指す人の脚を引っ張ったりはしない。ただ、眩しく見上げるだけだ。だから、貴方も下でのんびりと胡坐をかいている人間がいても、そこに砂を掛けたりする事はしないで頂きたい。
貴方が感じる6℃と、俺が感じる6℃は違うのだから。

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