Some Were Born To Sing The Blues

酒好き(2017年秋に断酒を宣言)、音楽好きな中年のおっさんの日々の呟き。趣味はテナーサックスとドラム。2016年冬に50歳目前で札幌に引越し、2017年春にピアノを始めました。そして2019年6月に東京暮らしを再開。生々流転の日々です。

相手に誠実でいて欲しかったら、自分も誠実でなくてはいけない

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基本的に、このBlogでは、仕事の話は書かないようにしている。何故かというと、仕事の話なんて詰まらないからだ。人生は短い。俺の残りの人生も少ない。だとしたら、嫌いな仕事に関することなんて、なるべく書きたくない。
だが、今日ふとした拍子に大昔(20年くらい前)に経験したある仕事の体験を思い出したので書いておく。別に誰かに対して参考になるとかでもなんでもないのだけれども。

※俺の仕事はシステムエンジニアである。

一ヶ月だけの短期の契約の仕事が舞い込んできた。想像つくと思うが、短期の仕事は碌なものがない。大抵、現場が火の車状態で、納期は遅れまくり、作業員は疲弊し、プロジェクトは崩壊寸前というものが殆どだ。
その現場もそういった悲惨な状況だった。行ってみると、現場初日で雰囲気はおおよそ掴めた。お客さんが「数字が合わない、処理が正しく実行されていない」とクレームを突き上げてきて、開発を請け負っていたチーム(そこに俺は入ることになる)は、検証作業、修正作業に追われていた。
プロジェクトマネージャーから「今こういったシステムの納品前なんだけど、****を作って欲しい」と言われた。言葉に出したか記憶が定かじゃないが、俺は「え、今から????」と思った。
納品直前で、新しいシステムを一つ作れだって? このマネージャー、馬鹿なのかな?
例えて言うなら、二階建ての家が来月完成予定のところに、三階部分を増築して欲しいというようなものだ。どれだけクレイジーな事か想像がつくだろう。

初日にこの説明を受けて、俺は「このプロジェクトは駄目だな。崩壊以外の手はねえな」と匙を投げた。システム開発は技術者を増員することで乗り切れる場合もあるが、どうやっても根本からやり直さないと駄目な場合がある。今回のケースは完全に後者だった。
マネージャーから説明を受けて、資料を読み込み、自分の担当で何をどう作ればいいか、ざっくりとしたスケジュール表を作った。三ヶ月必要だった。
「マネージャー、無理ですよ。これ、どう考えても三ヶ月掛かります」俺はそう報告した。これは、かなり正直に作ったスケジュールだった。だから、このスケジュールに関しては文句を言われる筋合いはない。
「いや、一ヶ月で出来るよ、うん、出来る。一ヶ月で大丈夫だから。優秀なプログラマを君の下につけるからさ。大丈夫だよ」
なんの根拠もなく、彼はそう言った。この瞬間、俺はこのシステムをまともに作り上げる事を断念した。マネージャーも技術者なのだから、俺に依頼したシステムを作るのにどれくらいの時間が必要か、判らない筈がない。もし、本当に判らないのなら只の無能だし、判っているのに無理難題を俺に背負わせてなんとかしようとしているのなら、これもやはり無能だ。

そもそも、俺の契約期間はたったの一ヶ月。三ヶ月掛かる仕事をどうやって一ヶ月でやれというのか。一ヵ月後が納品期限なので、なんとしてもこれに間に合わせようとしていたのだった。
俺はこの時「一ヵ月後に、とりあえずそれっぽく動くようにだけ設計と製造をしよう。俺の契約が切れた後にどうせ障害が出るだろうけど、それはもう契約終了後だから、知った事じゃない」と腹を括った。
一つだけ断っておくと、最初から穴のあるシステムを設計/製造した訳じゃない。俺もポンコツエンジニアだが、技術者としての良心はある。ちゃんと動く想定で設計はするけれども、穴がないとは言い切れない、その穴を塞ぐ為の調査や考慮を設計段階でしなくてはいけないが、その時間がないから、諦めざるを得ない、といった状況だった。

一ヵ月後、表面上は何の問題もなく動いているシステムを俺は設計/製造し、納品してその現場を終えた。最終日、俺は夜中の3時まで資料を作って現場を後にした。もう次の現場の契約が決まっていたからだ。新しい現場で働いていると、営業担当から電話が来た。「前の現場のマネージャーが連絡欲しがってるから、電話してあげて」と言うものだった。
やっぱりな、俺は笑った。どうせ俺の担当したところで障害が起きたのだろう。ある意味当然と言えば当然だ。

俺はそのマネージャーに電話をした。
「君の担当した***で障害が起きてるんだよね。こっちの現場来られないかな」
「無理ですよ。私、もう新しい現場入ってますし」
「残業とか終わってからでいいからさ。その後こっち来てよ」
「そういったのは、営業通してくれないと困ります」
「君の担当したとこで障害起きてんだよ。来てくれてもいいじゃないか」
カチンと来た。「営業通して下さい」とだけ言って、俺は電話を切った。もし、あのマネージャーが「悪いけど、助けてくれないだろうか」といったニュアンスで話を持って来たら、俺もヘルプしようかなと思わなかった訳じゃない。そりゃ設計したのは俺だし。自分にも責任がある。
だが、だ。俺は最初から「この期間じゃ無理です」と言った。三ヶ月かかると。それを一ヶ月でやれと厳命して、無理矢理納品させておいて、この言い草はないだろう。
自業自得じゃねえか。

その後、営業から特に連絡もなかったので、その崩壊した(であろう)現場の顛末を俺は知らない。あの時、マネージャーが「一ヶ月で作るのが無理なのは判ってる。でも、一ヶ月でなんとか形にしてくれ」と言ってくれたら、俺だってもうちょっと何とかしただろう。
だが、最初から人の話を聴くことをせず(聴く態度も見せず)、見たくないものを見ようとしなかったのは、あのマネージャーの責任だ。そこは俺の責任じゃない。
俺に責任があるとしたならば「一ヶ月で出来る訳ないでしょ!」と放り出すことをせずに「一ヶ月で、体裁だけ整えよう」と誤魔化した事だ。
この場合は「出来ない」と素直に言い通すことが最も誠実な対応だった。

マネージャーが俺に真摯な態度を見せてくれていたら、俺の対応も違っていた筈だ。後悔とかは特にない。ただ、人というのは感情で動く生き物だ。だから、自分が誠実でなかったら、相手もこちらに誠実ではいてくれない。その事を俺はそのマネージャーから教わった。

相手に誠実でいて欲しかったら、自分も誠実でなくてはいけない。
相手から愛して欲しかったら、自分が相手を愛さなくてはいけない。そういうことだ。