Some Were Born To Sing The Blues

Saxとジャズ、ピアノとブルース、ドラムとロックが好きなオッサンの日々の呟き

義母と息子のブルース

相方の実母は、かなりの変人だ。
一つ、ロジカルな話をすると、俺と一緒になろうと思うような女性はそもそも頭がおかしい。まともな人間は俺と一緒になろうとは思わない。つまり、その頭がおかしい女性(相方)の実の母親なのだから、必然的に変人という事になる。

相方と一緒になる事を決めた時(もう10数年前の話になるが)、相方から「うちの母親に会って欲しい」と言われた。相方が母一人子一人なのは聞いていたし、挨拶に行くのはそりゃ当然だと思っていたから、頷いた。
というよりも、そういったシチュエーションで相手の親に会いに行くのを拒む人がいるとしたら、それは相当後ろ暗い事があると言わざるを得ない。いや、俺も相当胡散臭い生き方をしてきた人間ではあるが、さすがにそれを拒否する理由がない。

「スーツとか着て行ったほうがいいかな?」と相方に問うと、普段着で良いと言う。まあ、正直言えば、ぶっちゃけ「お嬢さんを私に下さい」というような状況じゃない。単なる事後報告だ。「一緒になるので、よろしくお願いします」と。
相方から「うちの母親、変ってるけど、気にしないでね」と何度も念を押された。「俺に言わせりゃ、お前が一番変わってるよ」と言いたかったが、それは胸の裡に収めた。

コットンシャツにジーンズで相方の実家を訪ねた。今考えると、いくらなんでもスーツくらい着て行くべきだったような気がする。この辺り、40歳になった当時の俺は常識という奴が欠落していた。52歳になった今でも欠落したままではあるが。
ちなみに詳細を書く気はないが、相方と知り合う遥か昔に、別の相手、別の家族に結婚の挨拶をした事もあるが、その時も普段着だった(これだけ書けば、意味は判るだろう。追求しないで下さい)。

相方の実家を訪ねると、相方によく似た女性が顔を出した。挨拶をして、居間に通される。初対面だから、こちらも一応正座をしたりしていたのだが、将来の義母にいきなり言われた。
「貴方、うちの娘と一緒になった後も、浮気はするつもりかしら?」
俺は飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。

冗談ではなく、将来の義母と会ったのはその時が初めて。そして、初めて会ってから、一時間もしないうちにそんな事を切り出された。
すげー事訊くなあ、俺は感心した。正直言うと、相方が義母に俺の事をなんと伝えていたのかは判らない。せいぜい、名前と年齢と職業くらいだろう、伝えていたのは。
だが、初対面の娘の将来の亭主(つまり、彼女からしたら将来の義理の息子)に向かって、いきなり「浮気する予定あるのか?」と訊ける人はそういない。
仮に思っていたとしても、訊ける度胸がある人はそういないだろう。

物凄く衝撃的な質問だったから、その後何度も相方に「あんな事訊く人、普通いないぞ」と言った。すると相方は判で押したように「だから、うちの母親は変わり者だって言ってるじゃない!」と返して来た。確かに相方は嘘は言っていない。

相方と知り合う前の俺は、正直女性関係はだらしなかったから、それを義母は相方から聞いていたのかもなぁとも思った。が、相方の実父が浮気性だという話も何度も聞いていたから、たぶんそちらの影響のほうが強かったのかもしれない。
自分が亭主の浮気で悩まされたから、娘も同じ目に遭うのではないか、と。だが、それを初対面の男性に訊けるというのが一番凄いけれども。

未来の義母に訊かれ、俺は答えた。
「自分はもう40歳になります。そりゃ若い頃は女遊びもそれなりにしました。でも、もういい歳です。今更、他の女に現を抜かすつもりはありません」
これは本心だった。そもそも相方と付き合っていたら、他の女性に目をくれている余裕はない。相方と付き合うにはパワーが要るのだ。過去の他のどんな女性と付き合うよりも、二倍、三倍の労力が必要だった。これはちょっと文章で説明するのは難しい。また、相方のプライベートな部分が大きく関わってくるので、ここでは書かない。

で、取り合えず上記のような回答をして、義母を納得させる事が出来た(のかどうかは、俺には判らない)。

その後、俺は持参した焼酎をお湯割りで大量に飲んで、酔っ払って義母の家のリビングで寝ていた。初めて会った人の家で、酔って眠れる辺り、俺もやはり、かなり頭がおかしい。

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(7年前の写真。白川郷に向かう途中で、義母と)

頭のおかしい男と頭のおかしい女が一緒になる事を決めて、頭のおかしい女性に挨拶に行った。それだけの話だ。
登場人物が全員、まともじゃない事だけがよく判るエピソードではある。