Some Were Born To Sing The Blues

Saxとジャズ、ピアノとブルース、ドラムとロックが好きなオッサンの日々の呟き

心の病という事について

今日は特に何か思うところがあるわけじゃないのだが、「心の病気」について書く。

最近思うのが、昔に比べて「鬱病」の人が多くなった気がするということ。俺が若かった頃(20年以上前)は、こんなに沢山の鬱病の人はいなかったのではないか。
と書いていて早々に自分の考えを否定する。そうじゃないな。今はネット(Blog)というものが一般化して、自ら鬱であることをカムアウトする人が増えたのだ。昔はネットが無かったから、「私は鬱です」と言える環境がなかった。
それに、昔は今ほど鬱病に対しての認識、知識が無かったから、自分から告白する土壌というものがなかったと思う。鬱です、と言えば「何、甘ったれた事言ってんだよ。皆、辛くても歯食いしばって頑張ってんだ。辛いのはお前だけじゃない!」みたいな厳しい言葉を投げつけられたり。
また、本人自身、自分が鬱病である事に気付かなかったというパターンも相当数あったと想像する。「ああ、今日も仕事行きたくないなぁ。体も怠いし、でもそんな甘えた気持ちじゃダメだよね」みたいな。

俺自身は鬱病持ちではないと思う。確証はないけど。ただ、去年働いていたプロジェクトに今もいたら、もしかすると、心の病になっていた可能性は否定出来ない。
明らかに自分の許容範囲を超える仕事をさせられ、人間関係で辛い気持ちになったり。こんな日常生活を半年以上続けていたら、多少(心が)病んでも不思議はない気がする。
今は、そういった意味では、仕事量も人間関係もかなり改善されたので、きっと大丈夫だ。

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なんでこんな事を今日書いているかと言うと、たまたま、ある人のBlogを読んだからだ。その人は鬱病になって、仕事を退職した後、再就職した。Blogの最後の記事が「再就職して三週間目」。そのひとつ前が「再就職して二週間目」さらにその前が「再就職して一週間目」だった。三週間目で記事の更新がストップしていた。それも5年以上も前の日付だ。
その人は再就職して、その後どうなったのだろう? 病気が再発して(俺は鬱に関する知識は無い)、また仕事を辞めてしまったのだろうか。

そんな事を考えていたら、俺は昔の恋人の事を思い出した。彼女も鬱病持ちだった。俺と彼女が別れた理由に病気の事は直接関係ない(あったのかもしれないが、正直俺には判らない)。別れた理由は、彼女が他の男性を好きになったからだ。その男性は俺も知っている人だったから、別れて暫くは辛かった。が、今は俺の失恋の話が書きたいのではない。
元恋人とその新しい彼が結婚することを決めた、という話を俺は風の噂で聞いた。二人が一緒になるという話を聞いたのは、俺が彼女と別れてから一年以上経った頃だったろうか。その時はもう二人を祝福出来る心情になれていたのかな、ちょっと思い出せない。
彼女も自分のblogに彼と一緒になる事を匂わせるような記事を書いていた。知っている人(俺とか)が読めば「ああ、結婚するんだな」と判る内容だ。
ところが、それから大した時間も経たないうちに、彼女と彼は別れた。どうやって俺はその経緯を知ったのか、それも忘れてしまった。


そして彼女からメールが来た。「@@@区の×××病院に入院することになったから、見舞いに来て欲しい」と。調べてみると、その病院は精神科の病院だった。
彼と別れた事で、心の病気が悪化し、入院せざるを得ない状況になったのだな、俺は察した。彼女と付き合っている時から、彼女は俺に鬱病持ちである事は教えてくれていたから、その辺りは簡単に想像出来た。

病院に行き、受付で「入院している****子さんに面会に来たのですが」と告げる。看護婦さんに記帳を命じられた。俺は通常の外科医院のように「301号室です」みたいに部屋番号を教えて貰えるのかと思ったら違った。
看護婦さんが俺に「付いて来て下さい」と言って歩き出す。受付から廊下を暫く歩くと、物凄く分厚い鉄の扉があった。病院でこんな厚い鉄の扉を見たのは初めてだった。インターフォンを鳴らし「****子さんに面会です」と看護婦さんが言うと、扉が開いた。俺が中に入ると、再び扉は閉ざされた。
そうか、脱走とか企てる患者さんもいるんだな、俺は厚い扉を見ながら思った。中は普通の入院病棟と変わらなかった。久しぶりにあった彼女はスッピンだったが懐かしくもあり、また俺はどういった言葉を掛けたら良いのか、そんな事を考えた。
怪我とかではないから、彼女は普通に動ける。彼女のベッドに二人で腰かけて彼女の肩に手を掛けた。どういった言葉を掛けたら良いか判らなかったから、その代わりだ。
彼女とは普通に会話は出来たと記憶している。詳細は覚えていないが。暫くすると、彼女は「○○君(別れた彼女の元婚約者)に電話する」と言って、廊下にある公衆電話から彼に電話をしていた。なんでそういった流れになったのかは覚えていない。俺は「彼とは別れたんじゃないのか」と思ったが、無論口には出さなかった。電話の雰囲気はあまり友好的には感じられず、彼から電話を切られたようだった。
彼女は「退院したい」とひたすら言った。まあ、そりゃこんな鉄の扉に閉ざされた部屋にいたら、外にも出たくなるだろう。その気持ちは判らんでもない。彼女は言った。
「身内の許可があればね、すぐに退院出来るんだよ。だからさ、貴方が私の婚約者だって事にして。で、貴方が退院許可を書いてくれれば、私出られるから!」
両親は勿論、彼女の退院を許したりはしないだろう、まだ治っていないのだろうから。そうなると、他に身内はいない。だから彼女は俺を偽婚約者に仕立て上げようとしたのだ。
「え? でもさ。そんな嘘ばれるんじゃないの?」
「大丈夫だよ」
彼女は自信満々に言った。実際問題として、婚約者が退院許可を書けば、精神病院は退院出来るのか、俺には判らない。「婚約者」って身内扱いなのかな。戸籍上は、他人だよな、まだ。
俺が偽婚約者を演じる事はなかった。彼女が諦めたのか、そもそも婚約者じゃ退院許可が降りない事に気付いたのか、その辺りは覚えていない。ただ、病院から許可が降りないという事は、まだ治っていないという事なのだろうから、退院は慌てないほうが良いんじゃないかなと思ったのは覚えている。それは口には出さなかったけれど。

翌日も見舞いに行った。ということは、俺は土日を使って見舞いに行ったのだな。二日目も大した話はした記憶はない。天気がやたらに良くて、病院の前の景色がやけに眩しかったのは覚えている。
それから、どれくらいして彼女が退院したのかは忘れてしまった。彼女から退院したというメールが来たので「見舞い」の話をすると、彼女は俺の見舞いの事は一切覚えていなかった。多分だけど、治療のせいで記憶が飛んでしまったのだろう。或いは鬱病というのは、記憶の保持が難しくなるという側面もあるのだろうか。

俺が彼女の支えになれれば良かったのだが、その時俺には既に新しい恋人がいた。だから、せいぜいメールのやり取りをする程度の事しか出来なかった。
そして、新しい恋人と付き合い始めて半年くらいが過ぎ、彼女と二人で酒を飲んでいた時だ。新しい恋人に言われた。
「私、黙ってたことある。ごめんなさい。私、鬱病持ちなんだ…」
彼女は泣きながら俺に告げた。俺はえ? と思ったが、すぐに俺は「大丈夫だよ。病気だからってお前を嫌いになったりはしないから」と告げた。彼女は何度も「ゴメンね」と謝った。それは謝るような事じゃないだろうに。
そして、全く場に相応しくないが、「俺って鬱病持ちの女性に縁があるのかな?」と不謹慎なことを考えた。

入院していた彼女のほうが、通常の会話はスムーズだった。新しい恋人は、時々話が飛んだりもした。彼女の会話があちこちに飛ぶのは、そういう性格なのだと俺は勝手に解釈していた。また、彼女は俺のどうでもいい下らないダジャレや会話に必要以上に大笑いしたり、ウケたりする事があった。最初は、俺の事が好きだから、持ち上げてくれているんだなと壮大な勘違いをしていた。またデートに(彼女が)遅刻したくらいで、大泣きする女性だった。俺は感情の起伏の激しい人だなあと、呑気なことを考えていた。多分、病気が理由だったのだ。

鬱と一口に言っても症状も様々だ。十本以上の弓矢が刺さっても、立っていられる人もいれば、一太刀で倒れてしまう人もいる。

そういった心の病を持つ人に、どういった態度で接するのが一番良いのか、俺は未だに判らない。
多分、不正解はあっても正解はないような気がする。だから、俺はこの事に関して何かを言うつもりはない。言える資格もなければ、その立場でもない。

ただ、そういった辛い思いをしている人たちが、少しでも穏やかに過ごせれば良いなとは思う。