Some Were Born To Sing The Blues

酒好き(2017年秋に断酒を宣言)、音楽好きな中年のおっさんの日々の呟き。趣味はテナーサックスとドラム。2016年冬に50歳目前で札幌に引越し、2017年春にピアノを始めました。そして2019年6月に東京暮らしを再開。生々流転の日々です。

トランペットが嫌いだ

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トランペットが嫌いだった。

これは正確な言葉じゃない。正確には「トランペット奏者が嫌いだった」
そして、これもやはり正確な言葉じゃない。じゃ、正しい言葉は何か。

「トランペットを吹いていた高校の先輩が嫌な奴だった。そのせいで、一時トランペットが嫌いになった」これが正しい。

高校一年の時だ。何十年前の話だ? さすがに40年は経っていないが、35年くらい経ってるかな。それでもあの時の事はよく覚えている。順を追って書いていこう。

高校に入学した時、クラスに色々なクラブの先輩達(勿論面識はない)がやってきて、クラブ勧誘をしていた。中学時代から、スポーツをやっていた奴は割と意志が固いので、勧誘に惑わされる奴は少ない。中学時代に野球部だった奴は勧誘されなくても野球部に入るし、テニスをやっていた奴はテニス部、柔道をやっていた者は柔道部といった感じ。
俺は中学時代はバレーボール部だった。そのお蔭かは判らないが、身長は177センチある。あと、5センチくらい欲しかったところだが、今さら身長はどうでもいい。
だが、高校に入ってまでバレーをやる気はなかった。音楽をやろうと思っていたのだ。基本的には「軽音楽部」(今、軽音楽部って言って通じるのかな?)に入ってロックやポップスをやる予定だった。

教室に、割と好みなルックスの浅黒い肌をしたお姉さんがやってきた。イメージとしては、ビーチバレーの浅尾美和さんに似た感じ。俺は日焼けしたタイプの女性に滅法弱い(弱すぎるとも言う)。

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「ねえ、君。吹奏楽とか興味ない?」吹奏楽部の勧誘だった。
吹奏楽ですか? うーん…俺、ギターやるんでロック系とかの軽音(楽部)に入ろうかと思ってるんですよ」素直にそう言った。吹奏楽は好きでも嫌いでもない、縁のない音楽形態としか言いようがなかった。
「うち、兼任大丈夫だよー」
「うーん」と俺が唸っていると、美和先輩が脈ありと思ったのかさらに言う。「一度、練習見に来ない? 嫌だったら、断ってくれればいいから」
吹奏楽には興味なかった。が、美和先輩には興味があった。

と、話を中断して非常に大事なことを書いておく。俺の行動原理の90%以上は、好みの女性によって左右される(これは10代の頃から今に至るまで不変である)。

美和先輩はサックスチームのメンバーだった。俺は音楽教室に、放課後顔を出す事を約束した。
放課後に音楽教室に行くと、そこには美和先輩はまだ来ていなかった。どうしようかなーとウロチョロしていると、銀色のマウスピースを持った男性が近寄って来た。
「どうしたの、なんか用?」
俺は美和先輩に誘われたので練習の見学に来たと伝えた。すると彼が言った。
「そっかー、サックスかあ。トランペットは興味ない?」
彼が持っていたのは、トランペットのマウスピースだったのだ。俺は正直、この時トランペットもサックスもどちらもあまり興味がなかった。この時は、ギターが一番だったから。それから20年以上もしてから、サックスが一番!となるのだから、人生というのは本当に判らないものだ。

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「ちょっと試しに吹いてみない?」彼は、トランペットのマウスピースを俺に示した。トランペットのマウスピースを見たのは、それが人生で初めて。
彼が吹く見本をみせてくれた。へー、すげーと感心した。彼は続けて言う。
「トランペットはマウスピースだけでドからソまで出せないと駄目なんだ」
やってみなよ、と言われたので試しに口をつけて吹いてみたが、うんともすんとも言わない。
するとそのトランペット先輩が大笑いした。
「お前、ヒョットコみたいな顔になってんなぁ。それじゃ鳴らないよ。うん、サックスのほうがいいんじゃないか」
失礼な野郎だな、俺はムカッと来た。人生で初めてトランペットのマウスピース吹いたんだぞ、音が出なくて当たり前じゃないか。
彼が俺を馬鹿にした言葉はさすがに一言一句覚えている訳じゃない。でも「ヒョットコみたい」という言葉は今でも覚えている。それになんとなく言葉の端から「トランペットのほうがサックスよりも難しいからね」という上から目線的なニュアンスが伝わって来た。お前はトランペットは無理だけど、サックスなら大丈夫だろ、みたいな。
その後、美和先輩がやってきて、俺にサックスのイロハを教えてくれた(体験入部みたいなものだ)。サックスは鳴らすだけなら、トランペットに比べると圧倒的に簡単だ。初心者でも、一回目で音が出る。

美和先輩にサックスで吹奏楽部に入らないかと勧誘を受けた。他のサックスを担当している先輩二人(男女)も良い人そうだった。だが、俺はあのトランペット野郎に馬鹿にされた事が引っ掛かっていた。無論、サックスとトランペットだから普段は一緒に練習する事もないだろう。顔を合わせるのは、全体練習の時くらいか。
だが、やはり俺は引っ掛かった。初心者を馬鹿にするような奴がいる団体に入る気がどうしても起きなかった。
俺は美和先輩に、軽音楽部との兼任が難しいと言い訳をして、吹奏楽部には入らなかった。
今思い出すと、あの嫌なペット野郎に遭遇しなかったら、俺は吹奏楽部に入っていたかもしれない。というか、入っていただろう。そうしたら、10代でサックスが吹けるようになっていたのだ。
38歳にもなってから、中年のたしなみでサックスを始めなくても良かったのだ。勿体ない事をした。だが、それが巡り合わせというものなのだろう、きっと。

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俺が知る限り、プロでもアマでも本当に一流の人は、自分よりも楽器が下手な人(或いは全くの初心者)を絶対に馬鹿にしたりしない。否、上手い人ほど腰が低く、下のレベルまで降りてきて話をしてくれる、演奏レベルを合わせてくれる。それが「一流」ないしは「一流のマインドを持った人」だろうと思う。

これは偶々楽器の話をしているけれども、他のジャンルでも同じだ。ある事柄に対して、上手い人、知識の豊富な人が初心者や下手な人を馬鹿にするような事をやっていると、確実にその世界は衰退していく。
どんな分野であろうと、分母を増やす(裾野を広げる)事をしなかったら、沈んでいくだけだ。

俺が16歳の時にサックスを始めるチャンスを潰してしまったのは仕方がない。もう時計は巻き戻せないのだから。
ただ、一つだけ言っておきたい。もし貴方が何かにおいて、人に伝えられる物を持っているとして、その機会が来たら、是非とも初級者、初心者には優しく接してあげて欲しい。
腕前を披露したかったら、知識をひけらかしたかったら、自分よりも上の人に向かってやるべきだ。自分よりも下の者に向かって、導き教える事もせず、自慢大会をしたいだけだとしたら、貴方はその世界にいるべきじゃない。

それにしても、吹奏楽部に入らなかったのは今思うと勿体なかった。美和先輩、可愛かったのに(そっちかよ!)