Some Were Born To Sing The Blues

Saxとジャズ、ピアノとブルース、ドラムとロックが好きなオッサンの日々の呟き

騙した男が悪いのか、騙された女が悪いのか

今日も年寄の得意技の昔語りである。今日は「人を勘違いさせるとある事」ついて書こう。
15年以上前の話。俺が30代前半の頃だ。某現場に配属された。
初日に、現場メンバーと顔合わせの紹介をしていたら、一人の女性を紹介された。俺より7つ年上のT女史だった。
みな、彼女の事は普通にTさん、Tさんと呼んでいた。だが、何故か俺は初日から彼女を「Tちゃん」とちゃん付けで呼ぶようにしてしまった。今思い返しても、どうして「ちゃん付け」で呼ぶようにしたのか理由が思い出せない。
無論、彼女が自分よりずっと年上である事は知っていたし、俺はそもそも初対面の女性にあまり馴れ馴れしくするタイプの人間じゃない。割とそういう点では注意を払うタイプである(酒さえ入っていなければ)。
彼女は童顔でもなく、歳相応の雰囲気を持ち合わせたルックスだから、「ちゃん付け」が似合うタイプのキャラでもなかった。

当時は判らなかったけれども、この「彼女をちゃん付けで呼ぶ」という行為が彼女の何かに火を点けたのは後々の言動から明らかだった。
勘違いした彼女が悪いのか、勘違いさせた俺が悪いのか、だ。
彼女から「私の事、Tちゃんなんて呼ぶ人、貴方が初めてだよー」と言われた。

当時、俺は煙草を吸っていたし、T女史も煙草を吸っていた。だから喫煙所で一緒になることがままあった。
喫煙所での会話は当たり触りのないものが多い。そりゃ公共の場だからね。仕事の細かい話なんかは出来ない。
だが、たまに喫煙所に俺とT女史のみになる事があった。まあ、さすがにこれは偶然なんだと思うけれども。
或る日、彼女はパンツスーツ姿だった。それ自体は別に珍しくはない。喫煙所で二人きりだ。彼女は俺に背を向けてお尻をぐっと突き出しながら言った。
「ねえ、私ってお尻大きいかな?」
言葉に詰まった。俺とT女史は夫婦でもなければ、恋人同士でもない。現場で同じチームで働いている、同僚というだけの関係である。
その男性に向かって「お尻、大きいかな?」と訊ける神経も判らなければ、その意図も判らない。迂闊に答えられる問題でもない。
彼女が俺に向かって投げたこの質問は今でも覚えているんだけど、俺自身がどう答えたかは忘れてしまった。
それにそもそも異性に向かってお尻を突き出すという行為そのものが、相当にエロい行為である事は疑いようがない。
彼女は何を考えていたのか?

また別の日の喫煙所での事。
彼女は俺をまじまじと見ながら、訊いてきた。
「ねえ、私って美人かな?」
彼女のルックスは客観的に見て、わりと美人の部類に入るほうだったと思う。紫のアイシャドウのメイクをしていた。当時、俺はそういったメイクをする女性を身近に見た事がなかったので、それが凄く新鮮だった事を覚えている。あと、仲間由紀恵ちゃんばりに黒のストレートロングヘアを肩甲骨のあたりまで伸ばしていた。
酒の席で酔っ払って「私みたいな美人に男がいないなんて、おかしいだろー」とか「俺みたいなイケメンと付き合うにはそれなりの女じゃないとねー」みたいに、あくまでもジョークの一環としてなら判るが、素面で「美人かな?」と訊かれたのは人生初だった。
ちなみに、それ以後もそういった質問をする女性に遭遇した事はない。
この質問も、やはり衝撃が凄すぎて、なんと答えたか記憶にない。

喫煙所と俺達が働いているビルの中間地点に女性の下着ショップがあった。無論、俺には縁のない店だから殆ど気にも留めてなかったんだけど。
ある時、T女史と一緒にその前を通った時、彼女が俺に向かって言った。
「ねえねえ、ここの下着、プレゼントしてくれないかなー」
え? どういう事。俺と彼女は恋人同士でも何でもないんだけど。それに俺は人生においてそれまで恋人に下着をプレゼントした事すらないんだけど。

彼女との喫煙所でのやり取りでの衝撃的なものを代表して書いた。他にもあったんだろうけど、この3つがインパクトありすぎて、他は覚えていない。
当時は俺はまったく判らなかったんだけど、俺が彼女を「Tちゃん」と呼ぶ事によって、彼女自身が何か思ってしまったんだろう。
まあ、有体に言えば勘違いである。初対面でT女史を見た時、俺は一目ぼれをした訳でもない。ちゃん付けにしたのも深い意味はなかった。
だが、彼女からしてみたら、7つも年下の男性からいきなり「ちゃん付け」で呼ばれれば、「この男性、私に好意あるのかしら」と思っても不思議はない。
となれば、喫煙所でお尻を突き出してくる行為も納得が行く。かなり唐突な行為ではあるけれども。自分の事を好きな男性に自分の体を見せてあげる(服着てるけどね)という事だ。
「美人かな?」と訊く行為も、恋人同士ならよくある遣り取りだろう。この「美人かな」という単語を「可愛い?」と置き換えればさほど不自然じゃない。新しい服を買ったり、髪型を変えた女性が恋人に「可愛いかな?似合ってるかな?」と訊くのと同義語な訳だ。
当然、下着を買ってくれというリクエストは、二人きりで大人の時間を過ごしましょうというお誘いだ。そこでプレゼントしてくれた下着を身に着けた私を見せてあげる、という意味である(下着プレゼントしてくれ、というリクエストに対して他の解釈が存在するだろうか?)

当時の俺は彼女の発言の意図や意味が判らなかった。今思い返してみれば、自分が彼女を「ちゃん付けで呼んだ」事が全ての呼び水だ。俺が普通に「Tさん」と呼んでいれば、彼女も俺に向かってお尻を突き出すなんてエロい行為はしなかっただろう。下着買ってなんてねだったりもしない筈だ。
俺が女性の気持ちに対して鈍感すぎたというだけの話。当時、そういった事にまったく考えが至らなかった。気のない女性に対して気のあるような振りをしちゃいけないという事だ。

T女史とはその後、二人きりで酒を飲みに行くような間柄となった。男と女が二人きりで酒を飲みに行くとなれば、その後どうなったかなんて火を見るより明らかだ。

勘違いした女が悪いのか、勘違いさせた男が悪いのか。
女性からは「勘違いさせるような事を言う男が悪い!」と怒られそうだけど。
恋愛なんて、所詮は勘違いと思い込みで成立しているものなんだから、どちらが悪くてもいいのかもしれない。

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