Some Were Born To Sing The Blues

Saxとジャズ、ピアノとブルース、ドラムとロックが好きなオッサンの日々の呟き

池波正太郎信者の憂鬱

池波正太郎をご存じだろうか? 時代小説の大家である。俺はその池波正太郎のファンだ。信者と言ってもよい。
俺が池波ファンになった理由は至極単純。
1)俺は10代の頃から、TV時代劇「必殺」シリーズのファン。
2)「必殺」シリーズ第一作「必殺仕掛人」の原作が池波正太郎の「仕掛人・藤枝梅安」シリーズである事を知る。
3)じゃあ、原作読んでみようと、何冊か読んでみる。
4)ファンになる。

これだけだ。特別な切っ掛けや何かがあった訳じゃない。
あと話がそれるが、俺は多分「必殺ファン」というよりも「必殺オタク」というほうが近いと思う。過去の作品のDVDを買い漁り、それだけで20万円以上使っている。また同好の士と共に京都にまで出掛け、必殺シリーズの色々なロケ地を巡ったりもした。あれは楽しかったな。

話を池波に戻す。彼は時代小説以外にも、エッセイを多数書いている。氏のエッセイ集は何度も読み返した。夜寝る時や風呂の中で。もう内容も覚えてしまっているのだが、繰り返し繰り返し読んでいる。飽きないのか?と問われれば、飽きたような気もするし、飽きてない気もするし。この辺りは自分でもよく判らない。これは別にエッセイに限らず小説も同じなんだけどね。

で、だ。氏のエッセイには同じような内容が何度も出てくる。信者である俺はそのうちの二つを実践する事にしている。
そのうちの一つが「蕎麦屋で酒」だ。「酒を呑まないのなら、蕎麦屋になんぞ入るな!」と氏は嬉しい事を書いてくれている。酒好き、蕎麦好きの俺からしたら、全くもって有難い言葉である。
池波先生は「軽く呑んだら、そばを手繰って、さっと店を出ろ」とも言っている。だらだら長尻になるのは粋ではない、とも。俺が蕎麦屋で酒をやる時は、基本一人なので、あまり長々と呑む事はない。肴二品とざるそばで腹いっぱいになってしまうからだ。その間に呑める酒といったら、せいぜい日本酒が4合程度だろう。本当はもっと呑みたいところだが、先生の教えを守って、だらだら呑まないように気を付けているのだ。というか、4合呑む時点で、すでにだらだら呑んでいる気がしなくもない。

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そして二つ目。「タクシー運転手にはチップをやれ!」である。先生はエッセイの中で「お釣りの200円くらいは運転手さんにチップとしてやるもんだ。煙草代として取っておいてくれという感じで」と書かれている。エッセイが書かれたのが、何しろ30年以上も前の話なので、貨幣価値が現代とはだいぶにずれている。200円では煙草は買えない。
ただこれは、タクシードライバーに「煙草代をチップとして払え」という趣旨ではない。そうやってお釣りをチップとしてやると、それを貰った運転手は当然気分が良くなるだろう。そうすれば次に乗せた客に対しての態度や運転マナーも良くなる。そうなると、次に乗った客も「今日は良いタクシーに当たったな」と気分が良くなる。
つまり、「200円のチップ」が遭遇する人を順に幸福にしていくという「ペイ・フォワード」の精神なんだな。
俺はこの事にいたく影響を受けて、この趣旨のエッセイを読んで以来、タクシー料金を払う段になって「お釣りは結構です」というようにしている。

先々週にサックス教室の発表会があり、打ち上げの二次会に移動するのにタクシーを使った。その時、移動距離からして、「千円は絶対に超えるが、二千円はいかないだろう」という程度だった。目的地に近づくにつれ、俺は「頼むから料金が1,500円を超えてくれ」と思っていた。
どういうことか。目的地に着いた時に「1,300円」くらいだったとした場合、2,000円渡して「お釣りは結構です」というのは、正直厳しい(さすがにチップに700円はね)。だが、料金が1,600円程度だったら、千円札を2枚出して「お釣りは結構です」と言うのは気分的に難しくない。
料金が1,300円だったら、千円札と500円玉を出して「お釣りは結構です」と言えばいいだろうって? それは粋じゃないんだなあ(笑)
実際は料金が1,600円ちょっとだったので、事無きを得たが。俺自身の経済的なところからして、500円が一つの分水嶺になっている気がする。また、料金が1,900円くらいだと、これまた「申し訳ない」という気分になってしまう。チップが少なくてすみません、みたいな気分になるというかね。
なかなか難しいものだ。

ちなみに、蕎麦屋で一人酒をやる時は、池波正太郎の時代小説がぴったりだ。って、よく考えたら、前もこんなエントリも書いてたな。

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