Some Were Born To Sing The Blues

Saxとジャズ、ピアノとブルース、ドラムとロックが好きなオッサンの日々の呟き

Forever Young

揉み上げの辺りにやけに白いものが目立つようになった。まあ、歳だから仕方ない。風呂に入った時に、相方の使っていた白髪染めがあったので、ちょっと拝借して染めてみた。
風呂上りに確認したが、あまり上手く染まっていないようだった。普段、白髪染めなんか使わないしな。明日薬局でも行って、部分染めでも買ってくるか、そんな事を考えていたら、昔一緒に仕事をした名古屋さん(仮名)の事を思い出した。

今から12年くらい前の話だ。携帯電話で有名な某けーでぃーでぃーあいの管理会計のシステムを作っていた事があった。その時、一緒に仕事をしたのが名古屋さんだった。当時彼が50代前半くらいだったろうか。俺より一回り以上、歳が上だった。
最初は「こんなおっさんとチーム組んでやるのか、やだなあ」といった感じだった(当時まだ俺は36歳くらいだったかな?)。だが、一緒に仕事をしていくうちに段々と仲良くなり、度々一緒に酒を呑むようになった。
システム開発の仕事というのは、普通に仕事をやっていると納期に間に合わなくなるのが常であり、そのプロジェクトも大幅に納期が遅れ、仕事は山積みとなり、最悪の現場だった。だから22時、23時過ぎまで残業なんてのも平常運転。ある時なんか、俺と名古屋さんが23時過ぎまで残業していると、チームリーダーが別チームの人から「打ち合わせ今からやりたいんだけど」「ごめんなさい。今手離せないから、ミーティング12時からでいいかな?」なんてやり取りをしている有様だった。意味判りますか? この会話がされていたのは23時過ぎ。つまり12時ってのは深夜零時の事。どこの世界に深夜零時に打ち合わせ始める現場があるんだよ? ここだよ!

そんな地獄みたいな現場で一緒に仕事をしているから、仲間意識というか「同じ釜の飯を食う仲間」的な変な連帯感が生まれるのだな。
彼とは普通の焼き鳥屋にも飲みに行ったし、ラーメン屋で叉焼を肴にビールを呑んだり、なんてのもよくやったが、結構お姉ちゃんのいる店にも行った。名古屋さんがそういった店を好んだからだ。チームの一人が浦安に住んでいて「浦安に俺の高校の同級生がやってる店あるんですけど」と紹介され、浦安の飲み屋に入り浸るようになった。
その店はスナックとキャバクラの中間みたいな店だと思う。俺はキャバクラは生涯で2回しか行った事ないから、キャバクラよく知らないんだけどさ。一応カウンターとテーブル席が4つ程あった。各テーブル(一組の客)に対して女の子が一人つく、というようなシステム。料金は大体一人一万くらいだったかな。
名古屋さんはもう50を回っているのに、女の子が大好きで、下ネタが大好きだった。「おっさん、元気で若いなー」と俺はしみじみ思ったものだった。
「なあなあ、PTAの役員やるといいぜ。そうしたら主婦連中喰い放題だからさ。彼女達は誘えばもう楽勝だから。お前なんか俺より女にモテるだろうから、PTAやれば、やりたい放題だぞ」と酒の席でよく言われたものだ。名古屋さんのPTA話が法螺なのか、本当の話なのかは判らない。別に嘘でも真実でもどちらでも良い。そういった名古屋さんの「おっさんの下ネタ話」を聴くのが俺は嫌いじゃなかった。
世の中には、歳喰うと枯れてしまって、もうそういった話には一切興味がありません、て感じになる男の人がいるが、それも寂しい。無論、女性相手にセクハラするなんてのは論外だが、少なくとも野郎同士の酒の席で女の話が出来なくなったら、男として終わりである。

無論、名古屋さんとは女と下ネタの話だけしてた訳じゃない。当然残業三昧の現場の愚痴も言い合ったし、名古屋さんの複雑な家族の話も聴かせて貰った。俺も名古屋さんには自分の話をしたと思うんだけど、覚えてるのは「長く女と暮らして、別れたくなったんだけど、愛が亡くなっても情は残るから始末が悪い」と言った事くらいか。当時、俺も私生活で問題抱えてたからな。

その浦安のスナックによく通ったのは、俺には目当ての女性(女の子というには歳が行き過ぎてた。30半ばくらいだった)がいたからだ。名古屋さんがいなくても一人でも何度か店に行った事がある。結局目当ての子とは上手くいかずに終わってしまったけどね。

ある日、名古屋さんと呑んでた時の事だ。「浦安の例の店に中国人の李さん(仮名)ているの覚えてる?」と問われた。ああ、あの日本語が片言の純朴そうな子か、俺が思い出した時に名古屋さんが言った。
「先週、彼女と伊豆に旅行にいってきたよ」
俺は衝撃を受けた。名古屋さんが李さんと会ってから、まだ一ヶ月も経っていないのだ。すげーな、このおっさん。すると、名古屋さんが笑える話をしてくれた。
李さんとベッドに入り、いざ男女の交わりをしようとした時、名古屋さんは財布を持って、洗面所に行った。前から聴かされていたのだが、名古屋さんはバイアグラがないとそういった行為が出来ない状態なので、財布にいつもそれを入れてるのだそうだ。で、いざ決行!となった時にそれを洗面所で服用しようと思ったのだな。
さすがに名古屋さんも女性の目の前でそれを飲むのは男の矜持が許さなかったのだろう。
すると、李さんは「トイレに行くのに財布を持って行った。私がお金を盗むと思ったのか?」と名古屋さんに詰問したそうだ。そりゃ、バイアグラの存在知らなきゃ、そう思うわな。
俺は大笑いした。

一年程して、俺は別の現場に回された。それからも名古屋さんとは時々呑んでいたが、気付くと互いに連絡を取らなくなってしまった。特に理由があった訳じゃない。なんとなくだ。
今でも会えば、きっと当時のように馬鹿話と女の話が出来る気はする。ただ、名古屋さんは今はもう60回ってるだろうしな、元気なんだろうか。

俺は今はもう50歳が目前で、当時の俺よりも当時の名古屋さんに近い年齢になってしまった。とても名古屋さんのように、会って一ヶ月で若い女性を温泉旅行に誘えるだけのバイタリティはない。
だが、50過ぎても若い同性相手に、平気で女の話が出来るような元気なおっさんを俺も目指していくとしよう。

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