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Some Were Born To Sing The Blues

酒好き、音楽好きな中年のおっさんの日々の呟き。趣味はテナーサックスとドラム。50歳目前で札幌に引越し、ピアノを始めました。

photograph

メールチェックをしていると古い友人であるBからのメールがあった。Bは一つ年上の異性の友人だ。
なんだろ、珍しいな。添付ファイルがある事が判る。メールを開くと、「覚えてる?懐かしいね」の一行のみ書かれていた。添付ファイルは画像ファイルだった。今から17年前に撮られた写真だ。
ビーチでトランクスタイプの水着を穿いている俺と、その横で水着の上にTシャツを着ている彼女。俺の右腕は彼女の肩の上にあり、彼女の左手は俺の腰の辺りにある。知らない人間が見れば、間違いなく恋人同士の写真にしか見えない。

俺とBが知り合ったのは俺が16歳の時だ。彼女が一つ年上だから、学校の同級生という訳じゃない。学校の何かのイベントで知り合ったのだろう(何のイベントだったかも覚えていない。そりゃ30年以上も前の話だからな)。初対面の時に彼女がやけに積極的に俺に話しかけてきてくれた事はよく覚えている(無論、何を話したかなんて覚えていない)。Bと知り合いになって暫くしてから、俺はBの親友のAと付き合い始めた。Aと付き合い始めてから、AとBが親友だった事を知ったのか、Bから親友のAを紹介されたのか、それすらも覚えていない。自慢じゃないが、俺は生まれて初めてのガールフレンドと、どういういきさつで付き合い始めたのかすら覚えていない。
B、Bの恋人、俺、Aの4人でつるんで遊んだ。ボーリングによく行ったな、そういや。
Bは高校3年生だったから、俺達がつるんで遊んだのは一年足らずだった。そして俺はAとも別れたし、Bもかなり離れた場所へ進学(だったよな、確か。就職じゃなかった筈)し、離れ離れとなった。
ただ、俺とBは互いに「俺達、友達だよな」という微妙なスタンスで、時々手紙でやり取りはしていた。携帯電話もインターネットもメールもない牧歌的な時代だ。毎週やり取りをする程頻繁でもなく、かといって年賀状のやり取りしかしない程、音信不通でもなかった。それでも数カ月に一回、やり取りする程度。

何年かして、彼女から結婚して海の近くの街に引っ越したと連絡があった。高校卒業後、彼女とは一切会っていなかった。会う理由もなかったし、物理的に距離も離れていた。彼女が結婚した事により、これで会う可能性は殆どなくなったなと実感した。特に寂しいとは思わなかった。俺と彼女はそういった距離の関係だと思っていたから。

そして最後に彼女と会ってから、14年が過ぎ、俺は31歳となっていた。この頃やっとネットやメールも一般に普及してきて、俺達もメールでたまにやり取りするようになっていた。たまにというのは、本当に半年に1度くらい「元気でやってる?」程度の内容のやり取りをする、という意味だ。
ある時、俺はたまたま彼女の住んでいる街のすぐ近くに出掛ける用事が出来た。これも何かの縁だろう。彼女に連絡してみると「会おうよ!」と言われた。既に彼女は二児の母となっており、何かを期待していた訳じゃない。
約束した駅の改札を抜けたところに彼女がいた。海の近くに住んでいたせいか、やけに日に焼けている。実に14年振りの再会。彼女は俺の顔を認めると、抱きついてきた。そういや高校時代もよくそういう冗談をやる女性だった。
「変わらないねー」と互いに言い合い(実際はそれぞれ14年分、老けていた。最後に会った時は10代だった男女が既に30代だ。変わらぬ訳がない)、笑いあった。
「時間ある?」と訊かれたので、夜には***に行かなくちゃいけないと答えると「じゃあ、海に行こう」と言われた。
彼女の家に行き、娘さん二人をピックアップし(しかし彼女が俺を駅まで迎えに来ている間、誰が娘達の面倒を見ていたのだろう)海へ向かう。近くのスーパーでビールの6缶セットを買ったのを覚えている。
ビーチで波に戯れる子供たちを見ながら、俺は彼女とたわいないお喋りをした(内容は何も覚えていない)。そして彼女のママ友(現代の言葉で言うなら)に「良かったらビール沢山買ってきたんで、飲んで下さい」と勧めたのも覚えてる。が、このママ友と現地で遭遇したのか、ママ友と一緒に海に行ったのか記憶にない。17年も前の話だ。覚えてなくて当然なのだが、ママ友にビールを勧めたという、どうでもいいことはしっかり覚えているのは何故なんだ?

で、冒頭の写真の話に戻るのだが、このビーチで俺と彼女のツーショット写真をママ友に撮って貰った。というか、この写真を撮った事すら俺は記憶にない。だが写真がある以上、撮ってくれたのは消去法的にママ友しかいない。

出発の時間の関係で、ビーチを離れる。彼女に駅まで送って貰う。この時二人きりだった。娘さん達はママ友が面倒を見てくれていたのだろう。ママ友は俺と彼女の関係を男女のモノだと思い、サポートしてくれたのかもしれない。或は彼女自身がママ友にそういったニュアンスの事を言ったのかもしれない。今となってはどちらでも良い事だが。

ホームのベンチに座り、二人で電車が来るのを待つ。段々と彼女の顔から笑顔が消え、泣き顔になっていった。「せめてあと一日いてくれればいいのに」そう言われた。だが俺の予定は変更の効かないものだった。やがて電車が来る。彼女は俺に抱きつくと、人目も憚らずにキスをしてきた。俺も彼女を強く抱きしめた。

17歳の時、初めて会った時から彼女の事が好きだった。でも、彼女には恋人がいた。だから友達として付き合った。「私は貴方のお姉さんだから」ともよく言われた。彼女はモテたからずっと恋人がいた。俺のチャンスはなかった。だから会う気にもなれなかった。
31歳の時に偶然会う機会が出来たから、駄目元で「会わないか」と誘ってみた。喫茶店で話すくらいでいいと思っていた。ゆっくり海に行って、写真も撮ったりして良い思い出となった。もっとも、この写真を送られるまで、あの日の事はすっかり忘れていた。そんなドラマみたいに日々思い出したり出来る程、俺はロマンチストじゃない。

そして31歳で彼女と再会してから、既に17年が流れた。当然彼女とはそれ以来会っていない(無論、メールやらでごくごくたまに連絡取ったりするけど)。
互いにもう50歳が目前だ。今更若かった頃の気持ちを思い出して、心が揺れたり日々の暮らしに迷いが生じる訳でもない。黄昏流星群じゃあるまいし。

ただ、あの海に行った日、あの日だけは、俺達は間違いなく恋人同士だったと言っていいんじゃないだろうか。二人の笑顔の写真を見ながら、俺は思う。そして、そんな気持ちを持てた事を誇りに思うくらい、許してくれてもいいんじゃないかな。

彼女の娘達も最近結婚したので、彼女がお婆ちゃんになる日も近い。そしてそれは決して悪い事じゃない。

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※本当は彼女が送ってくれた写真をここに貼りたいところですが、彼女の家族がここを見る可能性がゼロでない以上、それはルールとして出来ません。代りにイメージ画像貼っておきます(笑)