さて、先日と同じような(というかほぼ一緒)タイトルである。
で、前回はサックスを始めた切っ掛けを書いたので(その件については、こちら参照blogは人の人生に影響を与える - Some Were Born To Sing The Blues)、今日はドラムを始めた切っ掛けについて。
サックスを始めて1年くらいが経った頃の話。当時、やたらと「ジャズ、SAX」というキーワードでネット検索をしていた。同じようにサックスを趣味にしている人や、ジャズ好きな人のblogを読み漁っていたからだ。
そんな時にとあるジャズ好きの女性のblogに行き当たった。当時、彼女は2日に1回はジャズバーにジャズを聴きに行くようなジャズ狂だった。彼女のお薦めするジャズバーやミュージシャンの記事を読む度に「うーむ。聴きに行ってみたいが、うちから遠いなぁ」と言った感じで、あくまでもblogを読んでいるだけだった。そして当時彼女が頻繁に「鈴木道子は素晴らしいシンガーだ」と絶賛していた。
正直俺はあんまり(というか、殆ど)ジャズヴォーカルに興味がなかった。でもその彼女がそこまで勧めるのなら、相当良いシンガーなんだろう、1回くらいは聴いても損はなかろう、そう思うようになった。
鈴木道子で検索をかけると、吉祥寺にあるsometimeというジャズバーに月イチで出演している事が判った。鈴木道子さんが出演する日を調べて予約を取った。
店に行き、最初はビールを呑み、そしてバーボンをボトルで入れて、道子さんの出番を待つ。メンバーがステージに現れ、まずはピアノ、ベース、ドラムのトリオで演奏。そして3曲目辺りに道子さん登場。うーむ、確かに彼女の歌声は素晴らしい。blogで絶賛されていた事がよく判る。そしてステージの1stセットが中盤から終盤に差し掛かる。
道子さんの歌声は確かに素晴らしい。文句のつけようなどない。が、ライブの途中から、俺の興味は別のところに移っていった。
それが、ドラムだった。ジャズに限らず生ドラムを聴いたのは初めてじゃない。プロのドラマーの演奏も何度か(自慢出来る程沢山じゃないが)聴いた事がある。
だが、その日聴いたドラマーは俺の中にある「ドラム像」を変えるに充分だった。俺にとってドラムは「バンドのリズムをキープする楽器」という認識だった。その日のドラムは違った。確かにリズムキープの上手いドラマーは沢山いる。だが、その日のドラマーは「上手い」という表現が当てはまらなかった(むろん、滅茶苦茶上手いんだけど)。
一番しっくりくる言葉は「セクシー」だろう。
ドラムって、こんな色っぽい楽器だったのか。俺の中で色気のある楽器と言ったら、それはもうサックス、ピアノ、ギターに集約される。色気のあるドラムなんて聴いた事もなかったし、想像した事もなかった。
ドラムってすげー!
一目惚れならぬ、一聴惚れだ。ドラムってこんな表現が出来るのか。俺はもう彼の叩くドラムに夢中になった。
そのドラマーの名は「渡辺文男」さんという。ジャズ好きならご存じだろう。あのかの有名な渡辺貞夫の実弟だ(俺はこの時まで恥ずかしながら、文男さんを知らなかった)。
その日のステージは3セットあったのだが、最後まで見ると電車がなくなるので、2セット目が終わった時点で店を出た。すると店の外には文男さんがいた。
お願いしてツーショットの写真を撮らせて貰った(なんでも煙草を買いに出てたのだとか)。俺は人生で女性に一目惚れした事はないんだけど、ミュージシャンで一聴惚れしたのは今のところ文男さんだけだ。
そして、すぐに家の近所のドラム教室に申し込んだ。サックスを吹き始めてまだ1年しか経っていない。他の楽器をやる時間的精神的余裕なんかない。でも、ドラムが叩けるようになりたかった。ドラムという楽器を演奏したくてたまらなかった。当時、もう40歳になろうというのにだ。
俺は楽器演奏の才能がない。残念ながら、ドラムは大して上手くならなかった。まあ仕方ない。絶対的な練習量も足りないし。でも、下手ながらドラムが叩けるというのは、バンドをやるうえでのアドバンテージだ。
ドラムを始めて1年くらい経った頃、とあるJ-POPを中心にカバーしているバンドがドラムを募集していたので参加した。音楽のジャンルは俺の趣味じゃなかったが、メンバーが皆良い人ばかりで生のギター、ベース、キーボードと音を合わせるのは最高だった。このバンドは4年程度継続したのだが、仕事の関係で抜ける事になった。残念だったのはライブを一度もやれなかった事だな。そしてその後二つのブルースバンドに在籍し、ライブも何度か経験した。
今は転職した関係もあり、ドラム教室は通っていないし、ドラマーとしてバンドにも参加していない。だが、今までだって思わぬところから、縁が出来てバンドに参加する事が出来た。今後もきっとあるだろう。
だって、俺は滅茶苦茶下手なドラマーだが、ドラムを叩くのが凄く好きだからね。
あの頃、鈴木道子さんの歌を聴こうと思わなければ、sometimeというバーに予約をとらなければ、俺はドラマーとしてバンドを経験していない。
全てはあのblogに「鈴木道子はいい!」と書いてくれた人のお蔭だ。
俺が今、サックスを吹き、ドラムを叩いているのはどちらも普通に自分の趣味をblogに書いていた人達のお蔭だ(むろん、彼らは俺がここで感謝の言葉を述べている事なんか知らないだろう)。
そんなささやかな一言が誰かの人生を変える事もあるのだ。そう、俺が変わったように。だから「趣味しか書いてない」「日常生活を綴っただけ」、そんなblogを馬鹿にしちゃいけない。
思わぬところで誰かの人生を変える可能性があるのだから。